不定積分

原始関数と不定積分

\(F(x)\)を微分して\(f(x)\)になるとき、\(F(x)\)を\(f(x)\)の原始関数と呼ぶ。 一般に一つの関数\(f(x)\)に対し、 原始関数\(F(x)\)は無数に存在するが、これらをまとめて\(\tilde{F}(x)\)と書き、以下のように表すことにする。 \begin{equation} \label{primitive} \tilde{F}(x)=\int f(x) dx \end{equation} この\(\tilde{F}(x)\)を\(f(x)\)の不定積分と呼ぶ。

高校数学でも学ぶ不定積分です。大学では微分方程式を解く時に使います。 ここでは高校数学の知識をある程度前提として、より厳密な議論や勘違いしやすいポイントを押さえます。

不定積分には定積分を使った定義の方法もあります。そちらに関してはこちらから。

例題(レベル1)

まずは例題を通して基本事項をおさらいしましょう。

例題その1

\(f(x)=x\)の不定積分を考える。積分定数を\(C\)として結果は以下の通り。

\begin{eqnarray} \tilde{F}(x)&=& \int f(x) dx \nonumber \\ &=& \frac{1}{2}x^2+C \end{eqnarray}

一番シンプルな不定積分です。\(f(x)\)の原始関数は\(F_{1}(x)=\frac{1}{2}x^2+1\) や\(F_{2}(x)=\frac{1}{2}x^2+100\)などたくさんありますが、定数の部分をまとめて\(C\)と 表記したものが不定積分というわけです。

地味にややこしいので注意しましょう。

物理では積分定数が重要な意味を持ちます。次の例題ではそのことを確認します。

例題その2

\(v(t)=gt\)の不定積分を考える。(ただし、\(g\)は正の定数)
以下、積分定数を\(C\)として \begin{eqnarray} \tilde{F}(t)&=& \int v(t) dt \nonumber \\ &=& \int gt dt \nonumber \\ &=&\frac{1}{2}gt^2+C \end{eqnarray} である。

\(v(t)\)は初速\(0\)の物体が重力に引かれて等加速度運動するときの速度です。 なので、積分結果\(\tilde{F}(t)\)は変位に対応しており、積分定数は\(\tilde{F}(0)=C\)なので\(t=0\)の時の 初期位置に対応していることが分かります。

最後に勘違いしがちな\(0\)の不定積分を考えます。定積分の場合は\(0\)を 積分しても\(0\)ですが、不定積分の場合は結果が異なります。

例題その3

\(f(x)=0\)の不定積分を考える。微分して\(0\)になるのは定数のみなので、これを\(C\)すれば \begin{equation} \tilde{F}(x)=\int f(x) dx=C \end{equation} と求まる。

前提として、\(0\)の原始関数は\(0\)ではありません。例えば、\(F(x)=1\)などの定数関数は全て\(f(x)=0\)の原始関数になります。 そして、不定積分を原始関数の総称と思うと、\(0\)の不定積分は定数になる、というわけです。 定積分とは違うので気をつけましょう。

等号に関する注意(レベル2)

不定積分の等号

不定積分では定数分のズレがあっても同じものとみなす。つまり、 \(C'\)をある定数として \begin{equation} \label{equal} \tilde{F}(x)=\tilde{F}(x)+C' \end{equation} が成り立つ。この意味で不定積分の等号は普通のイコールとは意味が異なる。

不定積分には積分定数という自由度があります。このため、勝手に定数\(C'\)を加えても これを積分定数の一部と考えて吸収してしまうことが可能です。例えば、\(f(x)=x\)の不定積分 \(\tilde{F}(x)\)を考えた時、これに定数を加えたものを考えると、 \begin{eqnarray} \tilde{F}(x)+C'&=& \frac{1}{2}x^2+C+C' \nonumber \\ &=& \frac{1}{2}x^2+\tilde{C} \nonumber \\ &=& \tilde{F}(x) \end{eqnarray} のように\(\tilde{F}(x)\)と等しくなります。(ただし、\(\tilde{C}=C+C'\)と置いた。これは定数なので積分定数とみなせる)

もちろん普通のイコールでは、勝手に右辺に数を足すことは許されません。しかし、不定積分ではそうはなっていないわけです。 この意味で、不定積分の等号は特別であり、扱いに注意が必要だということですね。

一方、原始関数の場合は定数分ずれたものは別物とみなします。(要は普通の等号だということ) 例えば\(f(x)=x\)の原始関数として \begin{eqnarray} F_{1}(x)&=& \frac{1}{2}x^2+1 \\ F_{2}(x)&=& \frac{1}{2}x^2+100 \end{eqnarray} などがありますが、両者は違う原始関数というわけです。 原始関数は積分定数\(C\)の部分に具体的な数を代入したものなので、その数が変わってしまえばもはや別の関数 ということですね。

定積分による定義(レベル1)

定積分による定義

\(f(t)\)の定積分について、 \begin{equation} I=\int_{a}^{b} f(t) dt \end{equation} \(b=x\)の場合を考える。すると、\(I\)を\(x\)の関数とみなすことができる。 これを元々の\(I\)と区別するために\(\tilde{I}(x)\)とかくと \begin{equation} \label{indefinite} \tilde{I}(x)=\int_{a}^{x} f(t) dt \end{equation} である。この\(\tilde{I}(x)\)を\(f(t)\)の不定積分と呼ぶ。

不定積分を、原始関数ではなく、定積分を使って定義する流儀も存在します。 (大学数学的にはこちらが正当な定義なようです。両者の定義の関係は後述。)

通常、積分範囲の\(x\)と\(a\)を省略して \begin{equation} \label{indefinite2} \tilde{I}(x)=\int f(x) dx \end{equation} とよく書きます。(冒頭の\(\tilde{F}(x)\)の右辺と同じ記法を使っていますが、定義の方法が異なっていることに注意してください。)

(\ref{indefinite})式では積分下端\(a\)を明示的に書きましたが、実はこの不定積分は\(a\)には依存しません。なぜなら 積分下端が\(a\)の不定積分を\(\tilde{I}_{a}\)、\(a\)を\(c\)で置き換えたものを\(\tilde{I}_{c}\)と置くと \begin{eqnarray} \tilde{I}_{c}(x)&=& \int_{c}^{x} f(t) dt \nonumber \\ &=& \int_{a}^{x} f(t) dt + \int_{c}^{a} f(t) dt \nonumber \\ &=& \int_{a}^{x} f(t) dt + C' \nonumber \\ &=& \tilde{I}_{a}(x)+C' \end{eqnarray} のように、両者は\(C'=\int_{c}^{a} f(t) dt\)という定数 だけしか変わらないため、 \begin{equation} \tilde{I}_{c}(x)=\tilde{I}_{a}(x) \end{equation} とみなせるからです。この同一視は(\ref{equal})式と同様の発想であり 、(\ref{indefinite2})式の等号についても上記の特別ルールが適用されます。

さて、ここまで不定積分を定義する二つの流儀を紹介しましたが、以下では両者の関係性を解説します。

二つの定義の違い

原始関数によって定義された不定積分を\(\tilde{F}(x)\)、定積分によって定義された 不定積分を\(\tilde{I}(x)\)と置く。ほとんどの場合、\(\tilde{F}(x)\)と\(\tilde{I}(x)\)は 等しい。

二つの流儀の間の関係です。ほとんどの場合というのは連続関数の場合のことです。大学物理では 基本的に連続関数しか扱わないため、\(\tilde{F}(x)\)と\(\tilde{I}(x)\)は同じだと思ってよいです。

ただし、ここでの「等しい」とは(\ref{equal})式の意味であって、定数分のズレを許容した上での 等価性であることに注意してください。以下に具体例をいくつか挙げます。

\(\tilde{F}(x)\)と\(\tilde{I}(x)\)が等しい場合の例(連続関数の不定積分)

例題その1

\(f(x)=x\)の不定積分を考える。 \(\tilde{F}(x)\)は上の具体例で計算した通り、 \begin{eqnarray} \tilde{F}(x) = \frac{1}{2}x^2+C \end{eqnarray} (ただし、\(C\)は積分定数)である。

一方、\(\tilde{I}(x)\)は定義通り定積分と同じように積分を実行すると \begin{eqnarray} \tilde{I}(t) = \frac{1}{2}x^2+\frac{1}{2}a^2 \end{eqnarray} を得る。

さて、\(\tilde{F}(t)\)と\(\tilde{I}(t)\)を比べると、\(\frac{1}{2}a^2\)は必ず正なのに 対し、\(C\)は負であってもよく、別物のようにみえる。しかし、(\ref{equal})式より、不定積分では定数分のズレは同じものとみなすため、 両者は等しく、 \begin{eqnarray} \tilde{F}(x) = \tilde{I}(t) \end{eqnarray} である。

例題その2

\(f(x)=0\)の不定積分を考える。\(\tilde{F}(t)\)は上の具体例で計算した通り、 \begin{equation} \tilde{F}(x)=C \end{equation}

一方、\(\tilde{I}(x)\)は定義通り定積分と同じように積分を愚直に実行すると \begin{eqnarray} \tilde{I}(x) = 0 \end{eqnarray} となる。

\(\tilde{F}(x)\)と\(\tilde{I}(x)\)を比べると、片方は\(C\)なのに対し、もう片方は\(0\)になっている。 しかし、(\ref{equal})式より、不定積分では定数分のズレは同じものとみなすため、両者は等しく、 \begin{eqnarray} \tilde{F}(x) = \tilde{I}(t) \end{eqnarray} であって、 \begin{eqnarray} \tilde{I}(x) = C \end{eqnarray} が成り立つ。

最後に一致しない例外(不連続関数の不定積分)を確認します。

例外の例題

\(\theta(x)\)を以下のように定義する。 \begin{eqnarray} \theta(x)= \begin{cases} 1 & \quad (0 \leq x)\\ 0 & \quad (x<0) \\ \end{cases} \end{eqnarray} このもとでこの\(\theta(x)\)に対する\(\tilde{I}(x)\)を求めたい。 まず、\(\tilde{I}(x)\)は定積分で定義されているので\(a<0\)の場合において \begin{eqnarray} \tilde{I}(x)= \begin{cases} x & \quad (0 < x)\\ 0 & \quad (x = 0)\\ 0 & \quad (x < 0) \\ \end{cases} \end{eqnarray} と計算できる。(\(x \neq 0\)の場合は普通の定積分ですが、\(x=0\)の部分はリーマン和を使って計算しましょう。)

リーマン和になれていない人向けに説明すると、直感的には一点だけ値を持っていてもリーマン和は一点のみの情報には鈍感 なので、結局\(0\)になるという感じです。

さて、\(\tilde{F}(x)\)を求める前にこの\(\tilde{I}(x)\)を微分してみよう。すると \begin{eqnarray} \tilde{I}'(x)= \begin{cases} 1 & \quad (0 < x)\\ 0 & \quad (x = 0)\\ 0 & \quad (x < 0) \\ \end{cases} \end{eqnarray} であり、\(x=0\)の点のみが\(\theta(x)\)と一致していない。つまり、\(\tilde{I}(x)\) は\(\theta(x)\)の原始関数ではなく、このためこの場合は\(\tilde{I}(x)\)と\(\tilde{F}(x)\)は 別物である。

最後の例のような不連続関数の場合は、\(\tilde{I}(x)\)と\(\tilde{F}(x)\)が一致しません。 逆に、連続関数であれば必ず\(\tilde{I}(x)\)と\(\tilde{F}(x)\)を同一視できます。

とはいえ大学物理では基本的に連続関数しか扱わないため、上でも述べたようにいちいち両者を区別しません。

偏微分の不定積分(レベル1)

偏微分の不定積分

偏微分の不定積分は注意が必要。例えば \begin{equation} \label{partialint} \int \frac{\partial f}{\partial x} (x,y,z)dx=f(x,y,z)+C(y,z) \end{equation} (ただし、\(C(y,z)\)は\(y,z\)の適当な関数)である。

偏微分の積分には注意が必要です。普通の積分ならば、不定積分に つくのは定数でしたが、偏微分の積分では、積分定数が関数になります。これは右辺について\(x\)の偏微分を取ると、 \begin{equation} \frac{\partial}{\partial x} \Bigl( f(x,y,z)+C(y,z) \Bigr)= \pdiff{f}{x}(x,y,z) \end{equation} となることからも分かります。上記の例では\(x\)偏微分の\(x\)積分でしたが、\(y\)偏微分の\(y\)積分や \(z\)偏微分の\(z\)積分でも状況は同じです。

では、具体例でそのことを確認しましょう。

例題

\(a,b\)を定数として以下を満たす\(f(\bs{r})\)を求めたい。 \begin{equation} \nabla f(\bs{r})=\left (\begin{array}{c} ay\\ ax+b\\ 0 \end{array} \right) \end{equation} ただし、\(\nabla f(\bs{r})\)は\(f(\bs{r})\)の勾配。

各成分について両辺積分すると、 \begin{eqnarray} \int \frac{\partial f}{\partial x} (x,y,z) dx &=& \int ay dx \\ \int \frac{\partial f}{\partial y} (x,y,z) dy &=& \int ax+b dy \\ \int \frac{\partial f}{\partial z} (x,y,z) dz &=& 0 \end{eqnarray} となるが、(\ref{partialint})式に注意して偏微分の積分を実行することで \begin{eqnarray} f(x,y,z)+C_{1}(y,z) &=& axy \\ f(x,y,z)+C_{2}(x,z) &=& axy + by \\ f(x,y,z)+C_{3}(x,y) &=& 0 \end{eqnarray} を得る。ただし、\(C_{1}(y,z),C_{2}(x,z),C_{3}(x,y)\)は適当な関数。

以上の3式が矛盾なく成り立つには、\(C\)を定数として \begin{eqnarray} C_{1}(y,z) &=& -by - C \\ C_{2}(x,z) &=& -C \\ C_{3}(x,y) &=& -axy-by-C \end{eqnarray} であればよく、以上より \begin{equation} f(\bs{r})=axy+by+C \end{equation} であると分かった。

積分定数の解釈(レベル3)

現在準備中...この先必要になり次第追記します。