ノルムのテーラー展開

ベクトルのノルムのテーラー展開

ノルムのテーラー展開の計算は、定義に立ち返って根号の中の計算を先にすると上手くいく。

ノルムのテーラー展開は物理では頻出です。結果を覚えるのではなく、計算方法を習熟してください。

具体例その1(ベクトルの長さ)(レベル1)

位置ベクトルの長さ\(|\bs{x}|\)のテーラー展開

ベクトルの長さをテイラー展開した結果は \begin{equation} \label{veclength} |\bs{x}+\Delta \bs{x}|=|\bs{x}|+\frac{\bs{x} \cdot \Delta \bs{x}}{|\bs{x}|}+O((\delta \bs{x})^2) \end{equation} である。ただし、\(\delta \bs{x}:=\frac{\Delta \bs{x}}{|\bs{x}|}\)と置いた。

計算

ベクトルのノルムの定義は \begin{equation} |\bs{x}|:=\sqrt{\bs{x} \cdot \bs{x}} \end{equation} である。よって、 \begin{eqnarray} |\bs{x}+\Delta \bs{x}|&=&\sqrt{(\bs{x}+\Delta \bs{x})^2} \nonumber \\ &=& \sqrt{\bs{x}^2+2 \bs{x} \cdot \Delta \bs{x}+(\Delta \bs{x})^2} \nonumber \\ &=& |{\bs{x}}| \sqrt{ \left( 1+\frac{2\bs{x} \cdot \Delta \bs{x}}{|\bs{x}|^2}+O((\delta \bs{x})^2) \right)} \nonumber \\ &=& |\bs{x}|+\frac{\bs{x} \cdot \Delta \bs{x}}{|\bs{x}|}+O((\delta \bs{x})^2) \end{eqnarray} となる。

上記のポイントは、一旦\(|\bs{x}|\)をくくることで根号の中身を無次元量にしていることです。物理では基本的に、無次元量でないと テイラー展開できません。(\(\Delta \bs{x}\)の大小は\(\bs{x}\)と比較しなければ決められないため)

具体例その2(静電ポテンシャル)(レベル1)

電気双極子を求めるとき、静電ポテンシャル \begin{equation} \phi(\bs{r})=\frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \int d^3 r' \frac{\rho(\bs{r}')}{|\bs{r}-\bs{r}'|} \end{equation} を展開する必要がありますが、(\ref{veclength})を踏まえると楽に計算できます。

計算

静電ポテンシャル\(\phi(\bs{r})\)のテイラー展開は(\ref{veclength})式より、 \begin{equation} \frac{1}{|\bs{r}-\bs{r}'|}=\frac{1}{|\bs{r}|} \left(1-\frac{\bs{r} \cdot \bs{r}'}{|\bs{r}|}+... \right) \end{equation} なので、\(r=|\bs{r}|\)と書くと、、 \begin{equation} \phi(\bs{r})=\frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \left( \frac{Q}{r}+ \frac{\bs{p} \cdot \bs{r}}{r^2} \right) \end{equation} である。ここに、 \begin{equation} \bs{p}:=\int d^3 r' \bs{r}' \rho(\bs{r}') \end{equation} である。

具体例その3(相対論的エネルギー)(レベル2)

相対論ではエネルギーが根号で表されるので、展開する機会も多いです。 \(E_{\bs{p}}=\sqrt{m^2 c^4+\bs{p}^2 c^2}\)として、 \begin{equation} E_{\bs{p}+\Delta \bs{p}}=E_{\bs{p}}+\frac{\bs{p} \cdot \Delta \bs{p}c^2}{E_{p}}+\frac{\Delta \bs{p}^2 c^2}{2 E_{\bs{p}}} \end{equation} が成り立ちます。

計算

\begin{eqnarray} & \ & \sqrt{m^2 c^4+(\bs{p}+\Delta \bs{p})^2 c^2} \nonumber \\ &=&E_{\bs{p}} \sqrt{1+\frac{2\bs{p} \cdot \Delta \bs{p}c^2}{E_{p}^2}+\frac{\Delta \bs{p}^2 c^2}{E_{p}^2}} \nonumber \\ &=&E_{\bs{p}}+\frac{\bs{p} \cdot \Delta \bs{p}c^2}{E_{p}}+\frac{\Delta \bs{p}^2 c^2}{2 E_{\bs{p}}} \end{eqnarray}
特に、\(\bs{p}=0\)の時は、右辺は非相対論的極限に一致します。

相対論的エネルギーの非相対論的極限

非相対論的極限において、 \begin{equation} \sqrt{m^2 c^4+\bs{p}^2 c^2}=mc^2+\frac{\bs{p}^2}{2m} \end{equation} である。

有名な公式ですね。これは\(\bs{p}=0\)の周りでの展開になっています。