ノルムのテーラー展開の計算は、定義に立ち返って根号の中の計算を先にすると上手くいく。
ノルムのテーラー展開は物理では頻出です。結果を覚えるのではなく、計算方法を習熟してください。
ベクトルの長さをテイラー展開した結果は \begin{equation} \label{veclength} |\bs{x}+\Delta \bs{x}|=|\bs{x}|+\frac{\bs{x} \cdot \Delta \bs{x}}{|\bs{x}|}+O((\delta \bs{x})^2) \end{equation} である。ただし、\(\delta \bs{x}:=\frac{\Delta \bs{x}}{|\bs{x}|}\)と置いた。
ベクトルのノルムの定義は \begin{equation} |\bs{x}|:=\sqrt{\bs{x} \cdot \bs{x}} \end{equation} である。よって、 \begin{eqnarray} |\bs{x}+\Delta \bs{x}|&=&\sqrt{(\bs{x}+\Delta \bs{x})^2} \nonumber \\ &=& \sqrt{\bs{x}^2+2 \bs{x} \cdot \Delta \bs{x}+(\Delta \bs{x})^2} \nonumber \\ &=& |{\bs{x}}| \sqrt{ \left( 1+\frac{2\bs{x} \cdot \Delta \bs{x}}{|\bs{x}|^2}+O((\delta \bs{x})^2) \right)} \nonumber \\ &=& |\bs{x}|+\frac{\bs{x} \cdot \Delta \bs{x}}{|\bs{x}|}+O((\delta \bs{x})^2) \end{eqnarray} となる。
上記のポイントは、一旦\(|\bs{x}|\)をくくることで根号の中身を無次元量にしていることです。物理では基本的に、無次元量でないと テイラー展開できません。(\(\Delta \bs{x}\)の大小は\(\bs{x}\)と比較しなければ決められないため)
電気双極子を求めるとき、静電ポテンシャル \begin{equation} \phi(\bs{r})=\frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \int d^3 r' \frac{\rho(\bs{r}')}{|\bs{r}-\bs{r}'|} \end{equation} を展開する必要がありますが、(\ref{veclength})を踏まえると楽に計算できます。
相対論ではエネルギーが根号で表されるので、展開する機会も多いです。 \(E_{\bs{p}}=\sqrt{m^2 c^4+\bs{p}^2 c^2}\)として、 \begin{equation} E_{\bs{p}+\Delta \bs{p}}=E_{\bs{p}}+\frac{\bs{p} \cdot \Delta \bs{p}c^2}{E_{p}}+\frac{\Delta \bs{p}^2 c^2}{2 E_{\bs{p}}} \end{equation} が成り立ちます。
非相対論的極限において、 \begin{equation} \sqrt{m^2 c^4+\bs{p}^2 c^2}=mc^2+\frac{\bs{p}^2}{2m} \end{equation} である。
有名な公式ですね。これは\(\bs{p}=0\)の周りでの展開になっています。