単振動

単振動

単振動する物体の運動は以下の運動方程式 \begin{equation} \label{harmonicoscillator} m\frac{d^2 x}{dt^2}(t)=-kx(t) \end{equation} に従う。(ただし、\(k>0\))

高校物理でも扱った単振動ですが、大学物理では真面目に微分方程式を 解いて解を出します。また、この形の微分方程式は後々何度も顔をだすのでしっかり習熟しておきましょう。

この形の微分方程式について、より詳しく知りたい人はこちら も参照。

特殊解(解の具体例)(レベル1)

高校物理で一度学んでいるので、何となく解の形は予想できるかもしれません。

例えば、\(\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}\)とすると、正弦関数 \begin{equation} x(t)=A \sin (\omega t) \end{equation} は(\ref{harmonicoscillator})式の解になります。(代入すれば確認できます。)

他にも、余弦関数 \begin{equation} x(t)=A \cos (\omega t) \end{equation} も(\ref{harmonicoscillator})式の解です。

上記のように解の例はいくつかありますが、これらは特殊な条件下でしか解になりません。 実際、\(t=0\)を考えると、例えば正弦関数の場合、\(x(0)=0\)となり、初期条件が\(x=0\)の場合しか表せていないこと が分かります。このような特殊な条件下でしか成り立たない解を特殊解といいます。

一般解(レベル1)

単振動の一般解

1次元単振動の運動方程式 \begin{equation} m\frac{d^2 x}{dt^2}(t)=-kx(t) \tag{\ref{harmonicoscillator}} \end{equation} の一般解は \begin{equation} \label{generalsolution} x(t)=C_{1}e^{i\omega t}+C_{2}e^{-i\omega t} \end{equation} でかける。(ただし、\(\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}\))

特殊な条件下でしか成り立たない特殊解に対し、どんな初期条件にも対応できる解を 一般解と呼びます。導出は技巧的ですがそのうち慣れます。

早速微分方程式の一般解を導出していきましょう。確認として、(\ref{generalsolution})式が (\ref{harmonicoscillator})式の解になっていることは代入すればすぐ分かると思います。

続いて、これが一般解になっていることを確認します。 要は、(\ref{harmonicoscillator})式の解は全て(\ref{generalsolution})式の形 で表せることを示せればいいわけです。

証明

ある任意の関数\(f(t)\)を用意して、 \begin{equation} \label{arbitraryfunc} x(t)=f(t)e^{i\omega t} \end{equation} と置く。すると、\(x(t)\)もまた任意の関数になる。

(参考:任意関数に見えない人は\(f(t)\)を任意性をつかって \(f(t)=\frac{h(t)}{e^{i\omega t}}\)(ただし、\(h(t)\)は任意関数)と置きなおせば\(x(t)=h(t)\)となり、 もし\(h(t)\)に\(log(t)\)の掛け算とか、\(\sqrt{t}\)の足し算とかがあれば、\(x(t)\)もそのような答えを含むと分かる。)

これを(\ref{harmonicoscillator})式に代入して、解の形がどうなるか探る。 (このように既に分かっている解の形を起点に一般解の形を洗い出す方法を 定数変化法と呼ぶ。心持ちとしては、流石に\(e^{i\omega t}\)は解になっているのだから、 そこまで一般解の形はかけ離れていないだろうという打算で仮定した感じ。)

代入して計算すると、 \begin{eqnarray} &m&\frac{d^2}{dt^2}(f(t)e^{i\omega t})=-kf(t)e^{i\omega t} \\ &m&\frac{d}{dt}(f'(t)e^{i\omega t}+i\omega f(t)e^{i\omega t}) \nonumber \\ & \ &=-kf(t)e^{i\omega t} (\because 積の微分公式) \\ &m& \rule{0pt}{4ex}(f''(t)e^{i\omega t}+2i\omega f(t)'e^{i\omega t}-\omega^2 f(t)e^{i\omega t}) \nonumber \\ & \ &=-kf(t)e^{i\omega t} \end{eqnarray} まで変形できる。

さて、\(e^{i\omega t}\neq 0\)より、両辺割ると、 \begin{equation} m(f''(t)+2i\omega f(t)'-\omega^2 f(t))=-kf(t) \end{equation} さらに、\(\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}\)だったから、 \begin{equation} f''(t)+2i\omega f(t)'-\omega^2 f(t)=-\omega^2 f(t) \end{equation} ゆえに、 \begin{equation} f''(t)+2i\omega f'(t)=0 \end{equation} となるが、ここで、\(f'(t)=F(t)\)とおくと、 \begin{equation} F'(t)+2i\omega F(t)=0 \end{equation} のように一階微分の方程式に帰着できる。

\(\omega \neq 0\)より\(F(t)\)は \begin{equation} F(t)=C_{0}e^{-2i\omega t} \end{equation} となる。(ただし、\(C_{0}\):複素定数)

さて、\(f'(t)=F(t)\)とおいたのだったから、両辺を積分すれば \begin{equation} f(t)=\frac{C_{0}}{-2i\omega}e^{-2i\omega t}+C_{1} \end{equation} の形にかける。(ただし、\(C_{1}\):複素定数である。)

あとは\(C_{2}=\frac{C_{1}}{-2i\omega}\)と置くと、 \begin{equation} f(t)=C_{2}e^{-2i\omega t}+C_{1} \tag{12} \end{equation} とかける。最後にこの結果を(\ref{arbitraryfunc})式に代入すれば、 確かに、一般解が(\ref{generalsolution})式になっていることが確認できた。

物理的な解(実数解)(レベル1)

単振動の実数解

1次元単振動の運動方程式 \begin{equation} m\frac{d^2 x}{dt^2}(t)=-kx(t) \tag{\ref{harmonicoscillator}} \end{equation} の一般解のうち、実数解は \begin{equation} \label{physicssolution} x(t)=A \sin (\omega t +\alpha ) \end{equation} である。(ただし、\(A\)と\(\alpha\)は実定数であり、\(\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}\)である。)

上記で得られた一般解は複素数であるため、物理的な解としては適当ではありません。 現実の位置は実数で表されるため、実数部分を取る必要があります。

物理的な解

物理的な解は一般解の実数部分をとって得られる。

また、以下の事実から、実数解もちゃんと方程式の解になっています。

実数操作と微分操作

実数部分を取る操作と微分する操作は可換。(順番を変えても結果は不変) すなわち、 \begin{equation} Re[\frac{d x}{dt}]=\frac{d}{dt}Re[x] \end{equation} である。

では、実際に実数解を計算して、(\ref{physicssolution})式が得られることを 確認しましょう。

計算

計算するのは \begin{equation} x(t)=Re[C_{1}e^{i\omega t}+C_{2}e^{-i\omega t}] \end{equation} である。

オイラーの公式を使うと、 \begin{eqnarray} x(t)&=&Re[C_{1}e^{i\omega t}+C_{2}e^{-i\omega t}] \nonumber \\ &=&Re[(C_{1} +C_{2}) \cos \omega t \nonumber \\ & \ &+i(C_{1} -C_{2}) \sin \omega t ] \end{eqnarray} となり、ここで\(C=C_{1}+C_{2}\)なる複素定数:\(C\)に加えて、 \(C'=i(C_{1}-C_{2})\)なる複素定数:\(C'\)を定義してやると、 \begin{eqnarray} & \ &Re[(C_{1} +C_{2}) \cos \omega t \nonumber \\ & \quad &+i(C_{1}-C_{2}) \sin \omega t ] \nonumber \\ &=&Re[C\cos \omega t +C'\sin \omega t] \nonumber \\ &=&Re[C]\cos \omega t +Re[C']\sin \omega t \nonumber \\ &=&A \sin (\omega t +\alpha ) \ (\because 三角関数の合成) \end{eqnarray} (\(A= \sqrt{Re[C]^2+Re[C']^2} ,\tan \alpha =\frac{Re[C]}{Re[C']}\)と置いた)となってよく見る三角関数の解になる。

また、見方を変えれば、一般解は解をフーリエ変換したものだとも思えまが、 今はそこまで深く考える必要はありません。

単振動の運動方程式の重要性(レベル1)

(\ref{harmonicoscillator})式の形の運動方程式はこれからたびたび出てきます。 その理由の一つとして、以下があります。

単振動の方程式の有用性

安定な点近くの運動は、単振動の運動方程式(\ref{harmonicoscillator})式で近似できる。

要は、ばねの単振動以外の運動であっても、近似的に(\ref{harmonicoscillator})式が使える場面が あるということです。言葉だけではよくわからないと思うので、式を使って説明してみます。

前提として、ここでいう「安定な点」とは、以下のような地点のことを指すことにします。

安定な点(安定な平衡点)

場所の関数としての力\(F(x)\)に対して、\(F(a)=0\)かつ\(F'(a) < 0\)の地点\(x=a\)を安定な点と呼ぶ。

前者の条件\(F(a)=0\)は、その地点で力が\(0\)(または力が釣り合っている)という意味なので、物体がその点で安定であるために必須な条件だと 分かります。後者の条件\(F'(a) < 0\)については後で説明します。

説明

力が位置\(x\)に依存する場合の運動方程式 \begin{equation} m\frac{d^2 x}{dt^2}(t)=F(x) \end{equation} について、\(F(a)=0\)なる点\(a\)の周りで右辺をテイラーの展開すると、 近似的に \begin{equation} \label{equeq} m\frac{d^2 x}{dt^2}(t)=F'(a)(x-a) \end{equation} と表せる。特に\(F'(a)<0\)の場合、\(F'(a)=-k \ (k > 0)\)、\(X=x-a\)と置くと(\ref{equeq})式は \begin{equation} \label{harmonicoscillator2} m\frac{d^2 X}{dt^2}(t)=-kX(t) \end{equation} のようになり、(ただし、\(a\)が定数より\(\frac{d^2 x}{dt^2}=\frac{d^2 X}{dt^2}\)を使った) (\ref{harmonicoscillator})式の形に近似できる。

さて、\(F(a)=0\)かつ、\(F'(a)<0\)な位置\(a\)のことを安定な平衡点(安定な点)と呼びます。 この点では\(F(a)=0\)のため、力が釣り合っていて、かつ\(F'(a) < 0\)なので、(\ref{harmonicoscillator2})式のように、 \(x\)が\(a\)から少しずれても、\(a\)に引き戻そうとする力が働きます。このため、「安定」な「平衡」点と呼ぶわけです。

参考:今回の例とは反対に、\(F(a)=0\)かつ\(F'(a)>0\)の点を不安定な平衡点と呼びます。この点では力は釣り合っているものの、 少しでもこの\(a\)から離れると、\(a\)から遠ざかる向きに力が働いてしまいます。

注意として、上の変形はあくまで近似なので、\(x\)が\(a\)から離れすぎると成り立ちません。しかし、 安定な点周りの運動を分析したい時は、上記の近似で十分な場合が結構あります。

ここからしばらく単振動に似た運動方程式を扱いますが、これらも頻出の方程式 なので、一つずつ習熟していきましょう。