以下の形の微分方程式 \begin{equation} \label{harmonicoscillator} \frac{d^2 x}{dt^2}(t)+\omega^2 x(t)=0 \end{equation} は物理では頻出である。
初出は単振動の運動方程式だと思いますが、この形の微分方程式は各所で よく見かけます。この微分方程式の性質について簡単にまとめます。
ちなみに、この微分方程式は後に出てくる二階線形同次微分方程式の 特別な場合にあたります。
バネにつながれた質点の運動は抵抗や外力がない場合、単振動する。 運動方程式は \begin{equation} m\frac{d^2 x}{dt^2}(t)=-kx(t) \end{equation} であるが、\(\omega=\sqrt{{m \over k}}\)と置くと確かに \begin{equation} \frac{d^2 x}{dt^2}(t)+\omega^2 x(t)=0 \tag{\ref{harmonicoscillator}} \end{equation} の形に帰着できる。
高校物理でおなじみの運動方程式ですね。なぜあえてこの運動を学ぶのか というと、後述するように、同じ形の微分方程式とよく遭遇するからです。 なので、解法や解の性質を押さえておけば応用が利くというわけですね。
より詳しい解説は単振動の記事からどうぞ。
万有引力の運動方程式を時間微分ではなく、\(\theta\)微分に書き換えると \begin{equation} \label{Keplar} \frac{d }{d \theta} \left( \frac{1}{r^3}\frac{d r}{d \theta}\right) - \frac{1}{r} =-G\frac{M}{h^2} \end{equation} のようになるが、さらにこれは\(u=\frac{1}{r}\)と置いて変数変換すると \begin{equation} \frac{d^2 u}{d \theta^2} + u=G\frac{M}{h^2} \end{equation} に変形できる。 最後にに\(x=u-G\frac{M}{h^2}\)と置くと、単振動の微分方程式 の\(\omega=1\)の場合 \begin{equation} \frac{d^2 x}{dt^2}(t)+x(t)=0 \end{equation} に帰着される。
より丁寧な変形が見たい人、より詳い解説が知りたい人は ケプラーの第1法則の記事からどうぞ。
ここには書ききれませんが、上記のほかLC振動回路や、安定点まわりでの 運動の振る舞いなど、(\ref{harmonicoscillator})式の微分方程式へ帰着できる様々な例が 知られています。後者についてはこちらに説明があります。
関数\(x(t)\)が微分方程式(\ref{harmonicoscillator}) の解である時、その定数倍(\(y(t)=C x(t)\))も(\ref{harmonicoscillator})式 の解。
これは代入すれば、簡単に解になっていることは確認できます。一見当然の性質のように 思えますが、この性質は同次でなければ成り立ちません。同次とは各項の\(x\)の指数が同じ (今回の場合は1)という意味です。
関数\(x(t)\)が微分方程式(\ref{harmonicoscillator}) の解である時、その線形結合(\(y(t)=C_{1} x_{1}(t)+C_{2} x_{2}(t)\))も(\ref{harmonicoscillator})式 の解。
線形結合とは、解を定数倍して足し合わせたもののことを言います。線形結合で作られた解を 解の重ね合わせと呼んだりもします。
(\ref{harmonicoscillator})式の左辺に\(y(t)=C_{1} x_{1}(t)+=C_{2} x_{2}(t)\)を代入する。 \begin{eqnarray} \frac{d^2 y}{dt^2}(t)+\omega^2 y(t) &=& C_{1} \left( \frac{d^2 x_{1}}{dt^2}(t)+\omega^2 x_{1}(t) \right) \nonumber \\ &+& C_{2}\left( \frac{d^2 x_{2}}{dt^2}(t)+\omega^2 x_{2}(t) \right) \nonumber \\ &=&0 \end{eqnarray} 最後の行で、\(x_{1}\)と\(x_{2}\)が解になっているという仮定 (\(\frac{d^2 x_{1}}{dt^2}+\omega^2 x_{1}=\frac{d^2 x_{2}}{dt^2}+\omega^2 x_{2}=0\)) を使った。
微分方程式 \begin{equation} \frac{d^2 x}{dt^2}(t)+\omega^2 x(t)=0 \tag{\ref{harmonicoscillator}} \end{equation} の一般解は \begin{equation} \label{generalsolution} x(t)=C_{1}e^{i\omega t}+C_{2}e^{-i\omega t} \end{equation} でかける。(ただし、\(C_{1}\),\(C_{2}\):複素定数)
\(e^{\pm i\omega t}\)が解になっていることから、その線形結合である (\ref{generalsolution})式も解になっていることが分かります。 続いて、これが一般解になっていることを確認します。(一般解の意味が分からない人は こちらを参照してください。)
まず、 \begin{equation} x(t)=Ce^{i\omega t} \end{equation} (\(C\)は定数)は(\ref{harmonicoscillator})式になっている。即ち、 \begin{equation} \label{substitute} C\left( \frac{d^2 }{dt^2}+\omega^2 \right) e^{i\omega t}=0 \end{equation} が成り立つ。ここで、突然だが定数\(C\)を任意の関数\(f(t)\)に取り換えて \begin{equation} \label{arbitraryfunc} x(t)=f(t)e^{i\omega t} \end{equation} を用意する。すると、\(x(t)\)もまた任意の関数になる。ゆえに \(x(t)\)は一般解を含む。後はこれを(\ref{harmonicoscillator})式に代入して、 解の形がどうなるか探る。(このように、 定数部分を任意関数の置き換えた形を仮定し、一般解を洗い出す方法を 定数変化法と呼ぶ。)
実際に代入して計算していく。 \begin{eqnarray} \left( \frac{d^2 }{dt^2}+\omega^2 \right)(f(t)e^{i\omega t})=0 \\ \end{eqnarray} 積の微分公式を使うと、 \begin{eqnarray} &f(t)&\left( \frac{d^2 }{dt^2}+\omega^2 \right)e^{i\omega t} \nonumber \\ &\quad&+2 f'(t) (e^{i\omega t})'+f''(t)e^{i\omega t}=0 \end{eqnarray} ここで(\ref{substitute})により \begin{equation} f''(t)+2i\omega f'(t)=0 \end{equation} となるが、ここで、\(f'(t)=F(t)\)とおくと、 \begin{equation} F'(t)+2i\omega F(t)=0 \end{equation} のように一階微分の方程式に帰着できる。
\(\omega \neq 0\)より\(F(t)\)は \begin{equation} F(t)=C_{0}e^{-2i\omega t} \end{equation} となる。(ただし、\(C_{0}\):複素定数)
さて、\(f'(t)=F(t)\)とおいたのだったから、両辺を積分すれば
\begin{equation}
f(t)=\frac{C_{0}}{-2i\omega}e^{-2i\omega t}+C_{1}
\end{equation}
の形にかける。(ただし、\(C_{1}\):複素定数である。)
あとは\(C_{2}=\frac{C_{1}}{-2i\omega}\)と置くと、
\begin{equation}
f(t)=C_{2}e^{-2i\omega t}+C_{1} \tag{12}
\end{equation}
とかける。最後にこの結果を(\ref{arbitraryfunc})式に代入すれば、
確かに、一般解が(\ref{generalsolution})式になっていることが確認できた。
微分方程式 \begin{equation} \frac{d^2 x}{dt^2}(t)+\omega^2 x(t)=0 \tag{\ref{harmonicoscillator}} \end{equation} の一般解は \begin{equation} \label{generalsolution2} x(t)=A \sin \omega t+B \cos \omega t \end{equation} でかける。(ただし、\(A\),\(B\):複素定数)
一般解の別表現です。(\ref{generalsolution})式を変形することで (\ref{generalsolution2})式が得られます。
一般解 \begin{equation} x(t)=C_{1}e^{i\omega t}+C_{2}e^{-i\omega t} \tag{\ref{generalsolution}} \end{equation} を変形して(\ref{generalsolution2})式になることを示す。
今、\(b=\frac{C_{1}+C_{2}}{2}\)、\(a=\frac{C_{1}-C_{2}}{2}\)と置くと、 逆に解けば\(C_{1}=a+b\)、\(C_{2}=b-a\)なので、(\ref{generalsolution})式 は、 \begin{eqnarray} x(t)=a \left(e^{i\omega t}-e^{-i\omega t} \right) \nonumber \\ +b \left(e^{i\omega t}+e^{-i\omega t} \right) \end{eqnarray} と変形できる。
オイラーの公式から、これは \begin{eqnarray} x(t)=2i a \sin \omega t \nonumber \\ +2b \cos \omega t \end{eqnarray} である。あとは\(A=2i a\)、\(B=2b\)と置きなおせば、 (\ref{generalsolution2})式を得る。
\(x(t)\)が閉区間で滑らかならば、\(x(t)\)はフーリエ変換可能で \begin{equation} \label{Fourierseries} x(t)=\sum_{\Omega} x(\Omega) e^{i \Omega t} \end{equation} とかける。この表式から一般解(\ref{generalsolution})式が導出できる。
実は今回の場合、一般解がまさにフーリエ級数の形になっています。 なので、フーリエ変換を使えば、簡単に一般解を導けます。
普通に代入すれば答えが出ます。
代入して計算すると、 \begin{equation} (-\Omega^2+\omega^2) x(\Omega) =0 \end{equation} より、 \begin{eqnarray} x(\Omega) = \begin{cases} 0 & (\Omega \neq \pm \omega)\\ 任意の複素数 & (\Omega = \pm \omega) \end{cases} \end{eqnarray} より、\(x(\Omega)=C_{1} \delta_{\Omega,\omega}+C_{2} \delta_{\Omega, -\omega}\) なので、これをもとの(\ref{Fourierseries})に戻せば、 (\ref{generalsolution})式を得る。