微分方程式の基本事項

物理学と微分方程式

物理学の現象は基本的に微分方程式によって記述される。

運動方程式やマクスウェル方程式、波動方程式など、大学物理では現象を微分方程式で記述します。 そしてその解を求めることで、物体の運動や、波の波形などを知ることができます。 ここでは、微分方程式でよく使われる用語や、その意味などについて簡単にまとめました。

具体例(レベル1~2)

ここでは物理でよく出てくる微分方程式の代表例を挙げていきます。説明に出てくる「線形」や「同次」など の用語については後述の説明を見てください。

具体例その1(レベル1)

力学において、物体の運動は以下の運動方程式 \begin{equation} \frac{d^2 \bs{x}}{dt^2}(t)=\bs{F}(\bs{x}) \end{equation} と呼ばれる微分方程式によって記述される。

運動方程式は後述するように一変数かつ二階の微分方程式です。ベクトルの微分方程式ですが、これは成分ごとに考えると解が出せます。 (詳しくは→この記事参照)

同次か非同次かは力\(\bs{F}(\bs{x})\) の種類によってケースバイケースですが、線形な形が多いです。(ただし、万有引力などの中心力は非線形)。 個々の事例については→力学

具体例その2(レベル1)

電磁気において、電場磁場は以下のマクスウェル方程式 \begin{eqnarray} \label{monopole} & \ &\nabla \cdot \bs{B}(\bs{r},t)=0 \\ \label{Gausslaw} & \ & \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r},t)=\frac{\rho(\bs{r},t)}{\varep_{0}} \\ \label{Faradaylaw} & \ & \nabla \times \bs{E}(\bs{r},t)= - \frac{\partial \bs{B}(\bs{r},t)}{\partial t} \\ \label{AnpereandMaxwelllaw} & \ & \nabla \times \bs{B}(\bs{r},t)= \mu_{0} \bs{j}(\bs{r},t)+\varep_{0}\mu_{0} \frac{\partial \bs{E}(\bs{r},t)}{\partial t} \end{eqnarray} と呼ばれる偏微分方程式に従う。(使われている記号などの説明はこの記事からどうぞ。 そもそも偏微分を知らない人はこちらから。)

マクスウェル方程式は3変数の偏微分方程式です。(4つまとめてマクスウェル方程式と呼びます。)\(\nabla\)はナブラといって、 \begin{equation} \nabla=\left( \begin{array}{c} \frac{\partial}{\partial x} \\ \frac{\partial}{\partial y} \\ \frac{\partial}{\partial z} \end{array} \right) \end{equation} という意味の記号で、確かに偏微分が含まれています。マクスウェル方程式は線形ですが、電荷や電流があるかないか や、場が時間変化するかしないかで同次、非同次が変化します。
(個々の微分方程式について詳しくは→電磁気学)

具体例その3(レベル2)

量子力学において、波動関数は以下のシュレディンガー方程式 \begin{equation} \label{Schrodinger} i \hbar \pdiff{}{t} \psi (\bs{r},t)=\bigl(-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 +V(\bs{r}) \bigr)\psi (\bs{r},t) \end{equation} と呼ばれる偏微分方程式によって時間発展する。

シュレディンガー方程式も見て通り偏微分方程式です。線形かつ同次の微分方程式ですね。 ただし、実際に解くのは上の(\ref{Schrodinger})式ではなく、変数分離と呼ばれるテクニックを使って 簡単にした以下の微分方程式 \begin{equation} \left( -\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2+V(x) \right) \phi (\bs{r})=E \phi (\bs{r}) \end{equation} である場合がほどんどです。 (個々の微分方程式について詳しくは→量子力学)

線形と非線形(レベル1)

線形と非線形

微分方程式のうち、\(y^{(n)}\)を\(n\)階の導関数、 \begin{equation} P_{0}(x)y(x)+P_{1}(x)y'(x)+P_{2}(x)y''(x)+\cdots +P_{n}(x)y^{(n)}(x)=f(x) \end{equation} のように、\(y\)やその\(m\)階導関数\(y^{(m)}\ (m=0,1,...n)\)に関して一次の 微分方程式を線形な微分方程式と呼ぶ。 それ以外を非線形な微分方程式と呼ぶ。 (ただし、\(P_{m} \ (m=0,1,...n)\)は\(x\)に依存する係数)

微分方程式を学ぶとよく出てくるのが線形や非線形という用語です。一次という意味は\(y^2\)や、\((y')^3\)など二乗以上の項を含ま ないという意味です。これについては具体例を見た方が理解しやすいと思うのでいくつか紹介します。

具体例(線形)

例えば \begin{equation} y''(x)+5y'(x)=0 \end{equation} とか \begin{equation} xy''+x^2y'=y \end{equation} \begin{equation} y'''+xy'=3x^2 \end{equation} は全て線形。

具体例(非線形)

例えば \begin{equation} y''+y y'=0 \end{equation} とか \begin{equation} (y')^2+x^2y=0 \end{equation} \begin{equation} y'y'''+xy'=3x^2 \end{equation} は全て非線形。

非線形な微分方程式について、非線形な項(一次でない項)を非線形項と呼びます。上の例でいうところの \(yy'\)とか\((y')^2\)とか\(y'y'''\)などです。

線形な微分方程式と比べ、非線形な微分方程式はかなり解くのが難しいです。 有名な例としてアインシュタイン方程式やナビエストークス方程式がありますが、前者は解を一つ見つけただけで自分の名前が つきます。後者に関しては一般解を見つければノーベル賞を取れます。

ただし、これから出会うほとんどの方程式は(多分)線形なので、安心して解くことができるはずです。

同次と非同次(レベル1)

同次と非同次

線形微分方程式のうち、例えば \begin{equation} P_{0}(x)y(x)+P_{1}(x)y'(x)+P_{2}(x)y''(x)+\cdots +P_{n}(x)y^{(n)}(x)=0 \end{equation} のように、\(y(x)\)や\(y^{(m)}\)とその係数のみで表される微分方程式を 同次な微分方程式と呼ぶ。一方、\(f(x)\)を\(y(x)\)とは異なる関数として \begin{equation} P_{0}(x)y(x)+P_{1}(x)y'(x)+P_{2}(x)y''(x)+\cdots +P_{n}(x)y^{(n)}(x)=f(x) \end{equation} のように、同次でないものを非同次な微分方程式と呼ぶ。

微分方程式が線形かどうかと同じように重要視されるのは、同次か非同次かです。 基本的に右辺が\(0\)なら同次で、\(f(x)\)みたいにに\(x\)の関数が右辺に入っている場合は非同次です。 微分方程式の用語に同次形という言葉がありますが、これとは無関係なので注意してください。

上の説明では線形なものを例に挙げていますが、非線形かつ非同次な微分方程式も存在します。ただし、実用上あまり考えてもご利益がない ためここでは割愛します。

具体例(同次)

例えば \begin{equation} y'(x)+x^2y(x)=0 \end{equation} \begin{equation} y''+5y'=0 \end{equation} \begin{equation} xy''+x^2y'=y \end{equation} は全て同次。

最後の例は\(y\)を移項して \begin{equation} xy''+x^2y'-y=0 \end{equation} とすると同次であることが見やすくなります。

具体例(非同次)

\begin{equation} y''+2y'=\cos x \end{equation} \begin{equation} y'''+xy'={1 \over x} \end{equation} \begin{equation} y'''+xy'=x \end{equation} は全て非同次。

同次と非同次では同次の方が解を見つけやすいです。また、非同次の解を見つけるときにはしばしば 先に右辺を\(0\)にした同次形を先に解いておいて、そこから解を類推したり、一般解を考えるうえで利用したりします。 これについては具体的に問題を解くとわかってきます。

一般解/特殊解/特異解(レベル1)

解の種類

\(n\)階の微分方程式の解のうち、\(n\)個の任意定数を含む解を一般解と呼ぶ。 任意定数に特殊な値を代入した解を特殊解と呼ぶ。 一般解で表せない解を特異解と呼ぶ。

微分方程式における解の種類です。一番単純な1階の微分方程式を例に簡単に確認しておきましょう。 より複雑な例は他の記事を参照してください。

例題その1

例えば、以下の微分方程式 \begin{equation} \diff{}{x}{}y(x)=e^{x} \end{equation} の解は両辺積分すれば \begin{equation} y(x)=e^{x}+C \end{equation} です。(ただし\(C\)は任意定数)これは一階の微分方程式に対し、一個の任意定数を含んだ解なので 一般解です。この\(C\)に適当な値を代入した \begin{equation} y(x)=e^{x}+5 \end{equation} などは特殊解です。

微分方程式には一般解と特殊解は必ず存在しますが、特異解はあるとはかぎりません。 特異解がない場合、その微分方程式のあらゆる解は一般解の特別な場合、即ち特殊解として理解できます。

続いて特異解がある場合を考えます。

例題その2

以下の微分方程式について \begin{equation} \label{singular} \Bigl( \diff{}{x}{}y(x) \Bigr)^2=e^{x} y \end{equation} の解として \begin{equation} y(x)=(e^{{1 \over 2}x}+C)^2 \end{equation} (ただし\(C\)は任意定数)これは一階の微分方程式に対し、一個の任意定数を含んだ解なので 一般解です。しかし、(\ref{singular})式を見ると、明らかに \begin{equation} y(x)=0 \end{equation} も解になっています。しかし、この解は一般解の\(C\)をどの定数に選んでも表すことができません。 このような解を特異解と呼びます。