スカラーの線積分

スカラーの線積分

与えられた経路に沿って行う積分を線積分と呼ぶ。その表式は スカラーかベクトルかで異なり、特に スカラー関数\(f(\bs{r})\)について、以下の積分 \begin{equation} \label{slineint} I_{f}= \int_{C} f(\bs{r}) ds \end{equation} をスカラー関数の線積分と呼ぶ。ここに\(C\)は 積分する経路を表し、\(ds\)は線素と呼ばれる積分要素で その定義は \begin{equation} ds=\sqrt{dx^2+dy^2+dz^2} \end{equation} である。(3次元デカルト座標の場合)

線積分はベクトル解析で必須の計算です。ベクトル関数の線積分については こちらからどうぞ。スカラーの線積分について簡単にまとめました。

具体例(レベル1)

具体例を通してイメージをつかみましょう。

具体例その1

経路\(C\)の長さ\(L\)は以下の線積分 \begin{equation} L= \int_{C} ds =\int_{C} \sqrt{dx^2+dy^2+dz^2} \end{equation} で求められる。

被積分関数が\(1\)の時、スカラーの線積分は経路\(C\)の長さを表します。これは後述の 線積分の意味からも理解できます。 実際に下の例題の計算結果からも見て取れます。

具体例その2

地面に\(xy\)平面を張り、山の高さを\(z(x,y)\)のように表したとする。 山の体積は\(V=\int z(x,y) dxdy\)で求められるが、一方で 地面に垂直な平面で山を切った時、その断面積は線積分 \begin{equation} S= \int_{C} z(x,y) ds \end{equation} で求められる。ここに\(ds\)は二次元の線素で \begin{equation} ds=\sqrt{dx^2+dy^2} \end{equation} であり、経路\(C\)は切った断面を縁取るように取る。

スカラーの線積分の運用例です。立体の体積は面積分で行えますが、断面積は 線積分が必要です。高校数学の回転体の体積、断面積の時と発想は同じです。

定義と意味(レベル1)

スカラーの線積分の定義

線積分(\ref{slineint})式は、微小な距離\(ds = \sqrt{dx^2+dy^2+dz^2}\)に被積分関数をかけて 足し合わせる操作。数式で書くと \begin{equation} \int_{C}f(\bs{r}) ds = \lim_{\Delta s_{i} \to 0}\sum_{i=1}^{\infty} f(\bs{r}_{i}) \Delta s_{i} \end{equation} の通り。ただし、\(\Delta s_{i}\)は \begin{equation} \Delta s_{i}=\sqrt{\Delta x_{i}^2+\Delta y_{i}^2+\Delta z_{i}^2} \end{equation} である。

スカラーの線積分の意味は、被積分関数と空間上の微小な距離をかけて足し合わせるというもので、普通の 積分と大体同じです

普通の積分と異なる点は、座標軸上を積分するのではなく、空間上を線素が走って 積分が行われる点です。

計算方法(レベル1)

線積分の計算方法

線積分は媒介変数表示によって計算が可能。

スカラーの線積分にせよ、ベクトルの線積分にせよ、基本線積分は 媒介変数表示しなければ計算ができないので注意が必要です。では、 具体例とともにスカラーの線積分の計算方法を見ていきましょう。

スカラー線積分の計算方法

一般に、経路\(C\)の媒介変数表示は3次元の場合、\(x=x(t)\)、\(y=y(t)\)、\(z = z(t)\) の形で与えられる。このもとで線素\(ds\)は \begin{eqnarray} ds&=&\sqrt{dx^2(t)+dy^2(t) + dz^2(t)} \nonumber \\ &=& \sqrt{\left( \frac{dx}{dt} \right)^2 +\left( \frac{dy}{dt} \right)^2+\left( \frac{dz}{dt} \right)^2} dt \end{eqnarray} となるので、線積分は以下のように媒介変数表示で 計算ができる。 \begin{eqnarray} &&\int_{C} f(\bs{r}) ds \nonumber \\ &=&\int_{t_{i}}^{t_{f}}f(\bs{r}(t)) \frac{ds}{dt}(t) dt \nonumber \\ \label{paradisplay} &=& \int_{t_{i}}^{t_{f}} f(\bs{r}(t)) \sqrt{\left( \frac{dx}{dt} (t) \right)^2 +\left( \frac{dy}{dt} (t) \right)^2 +\left( \frac{dz}{dt}(t) \right)^2} \ dt \end{eqnarray} ただし、\(t_{i},t_{f}\)は経路の始点と終点に 対応する\(t\)の値。

2次元の場合も同様に媒介変数表示で計算ができる。

上の内容を要約すると、線積分は以下の3ステップで実行できるということです。

線積分計算の基本方針

(ステップ1)経路\(C\)を媒介変数表示で表す。
(ステップ2)線素\(ds\)を媒介変数\(t\)で表す。
(ステップ3)(\ref{paradisplay})式で線積分を媒介変数\(t\)の積分へ帰着し、実行する。

それでは例題を通して、どのように線積分が計算されるか追っていきましょう。

例題その1

経路\(C\)を\(x\)軸に沿った直線で、その長さが\(a\)の時、 \begin{equation} I_{1}= \int_{C} ds \end{equation} を計算したい。ただし、\(x\)軸正の方向へ積分するとする。

計算

まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。 今回は経路\(C\)は\(x\)軸上の直線なので、\(v\)を適当な定数として \begin{eqnarray} x=vt \quad (0 \leq t \leq \frac{a}{v}) \\ y=0 \quad (0 \leq t \leq \frac{a}{v}) \\ z=0 \quad (0 \leq t \leq \frac{a}{v}) \end{eqnarray} と表せる。(最終的な結果は\(v\)に依存しないので単に\(v=1\)として\(x=t\)と表してもよい。) 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。

続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素は \begin{eqnarray} ds &=& \sqrt{\left( \frac{dx}{dt} \right)^2 +\left( \frac{dy}{dt} \right)^2+\left( \frac{dz}{dt} \right)^2} dt \nonumber \\ &=& v dt \end{eqnarray} である。あとは、ステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると \begin{eqnarray} \int_{C} f(\bs{r}) ds = \int_{0}^{\frac{a}{v}} v dt =a \end{eqnarray} となり、以上より \(\int_{C} ds=a\) が得られた。

例題その2

経路\(C\)を\(x^2+y^2=a^2\)の円を反時計回りに一周する経路 として、以下の線積分を実行したい。

\begin{equation} I_{2}= \int_{C} ds \end{equation}

計算

まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。 今回は経路\(C\)は半径が\(a\)の円一周なので、\(\omega\)を適当な定数として \begin{eqnarray} x &=&a \cos \omega t \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi}{\omega}) \\ y &=& a \sin \omega t \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi}{\omega}) \\ z &=& 0 \end{eqnarray} と表示できる。(最終的な結果は \(\omega\)に依存しないので、 単に\(\omega=1\)と選んで\(x=a\cos t,y=a \sin t\)と表してもよい。) 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。

続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素は \begin{eqnarray} ds&=& \sqrt{\left( \frac{dx}{dt} \right)^2 +\left( \frac{dy}{dt} \right)^2 + \left( \frac{dz}{dt} \right)^2} dt \nonumber \\ &=& \sqrt{a^2 \omega^2 \sin^2 \omega t + a^2 \omega^2 \cos^2 \omega t} dt \nonumber \\ &=& a \omega dt \end{eqnarray} のようになる。あとはステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると \begin{eqnarray} L&=& \int_{C} ds \nonumber \\ &=& \int_{0}^{\frac{2 \pi}{\omega}} a \omega dt \nonumber \\ &=& 2 \pi a \end{eqnarray} となり、以上より \(\int_{C} ds=2 \pi a\) が得られた。

参考:例題その1とその2から、 \(\int_{C} ds\)が、経路の長さに対応していることが見て取れる。

例題その3

経路\(C\)が放物線の一部\(y=\frac{1}{2}x^2 \ (-1 \leq x \leq 1)\)の時 以下の線積分 \begin{equation} I_{3}= \int_{C} \frac{1}{x^2+1} ds \end{equation} を計算したい。ただし積分方向は\(x\)が増える方向とする。

まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。 今回は経路\(C\)が放物線の一部なので、媒介変数表示すると、 \begin{eqnarray} x=t \quad (-1 \leq t \leq 1) \\ y=\frac{1}{2}t^2 \quad (-1 \leq t \leq 1) \\ z=0 \end{eqnarray} と表示できる。 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。

続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素は \begin{eqnarray} ds &=& \sqrt{\left( \frac{dx}{dt} \right)^2 +\left( \frac{dy}{dt} \right)^2 + \left( \frac{dz}{dt} \right)^2} dt \nonumber \\ &=& \sqrt{1+t^2} dt \end{eqnarray} になる。あとはステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると \begin{eqnarray} I_{3}&=& \int_{C} \frac{1}{x^2+1} ds \nonumber \\ &=& \int_{-1}^{1} \frac{1}{t^2+1} \sqrt{1+t^2} dt \nonumber \\ &=& \int_{-1}^{1} \frac{1}{\sqrt{t^2+1}} dt \nonumber \\ &=& \left[ \log(t+\sqrt{t^2+1}) \right]_{-1}^{1} \nonumber \\ &=& \log(\frac{\sqrt{2}+1}{\sqrt{2}-1}) \end{eqnarray} となって積分が \(\int_{C} \frac{1}{x^2+1} ds=\log(\frac{\sqrt{2}+1}{\sqrt{2}-1})\)のように求まった。ただし、途中で 積分公式 \begin{eqnarray} & \ &\int \frac{1}{\sqrt{t^2+a^2}} dt \nonumber \\ & \ & = \log(t+\sqrt{t^2+a^2}) + C \nonumber \\ \end{eqnarray} を使った。

パラメータの取り方の非依存性(レベル2)

線積分のパラメータの取り方

線積分は(経路を正しく表せていれば)媒介変数の取り方には依存しない。

ベクトルの線積分でも述べましたが、線積分は媒介変数の取り方の詳細には依存しません。 例えば、媒介変数として\(x = vt\)と置いたとしても、最終的な結果に\(v\)は入らないというわけです。 同様の主張がスカラーの線積分でも言えます。

証明

証明に必要なのは合成関数の微分公式と置換積分くらいなので 簡単に示せます。

まず、経路\(C\)がある媒介変数\(t\)を使って \begin{eqnarray} \bs{r}=\bs{r}(t) \quad (a \leq t \leq b ) \end{eqnarray} と書けるとする。

このもとで、\(t\)とは異なる媒介変数\(u\)を 変数変換\(t=g(u)\)によって導入する。すると、上の表記は \begin{eqnarray} \bs{r}(t)=\bs{r}(g(u))=\tilde{\bs{r}}(u) \quad (a' \leq u \leq b') \end{eqnarray} のようにも表せる。(ただし、\(u\)の定義から \(g(a')=a,g(b')=b\)が成り立つとする。)

この二つの媒介変数を使って、線積分\(\int_{C} f(\bs{r}) ds\) の計算をそれぞれ実行してみよう。両者が等しいならば、 媒介変数に依存せず、線積分は一意に値が定まることがいえる。

まず\(t\)で媒介変数表示したものを\(I_{t}\)と置くと \begin{eqnarray} I_{t}=\int_{a}^{b} f(\bs{r}(t)) \frac{ds}{dt}(t) \ dt \end{eqnarray} であるが、続いて\(s\)を使って表したものを\(I_{u}\)と 置いてこれを計算すると、 \begin{eqnarray} I_{u}&=&\int_{a'}^{b'} f(\tilde{\bs{r}}(u)) \frac{ds}{du}(u) \ du \nonumber \\ &=& \int_{a'}^{b'} f(\bs{r}(g(u))) \frac{ds}{dt}(g(u)) \ \frac{dt}{du} du \nonumber \\ &=& \int_{a}^{b} f(\bs{r}(t)) \frac{ds}{dt} dt \nonumber \\ &=& I_{t} \end{eqnarray} (ただし、途中で合成関数の微分と置換積分の公式を使った)以上より\(I_{u}=I_{t}\)であり 適切に経路をパラメータ化できていれば、線積分は媒介変数の取り方に依らないことが確認できた。