静電ポテンシャルによって生じる電気的なエネルギーを静電エネルギーと呼ぶ。
静電場の持つ静電エネルギーは以下で与えられる。
\begin{equation}
\label{electricenergy}
U = \frac{\varep_{0}}{2} \int dV' \bs{E}^2(\bs{r}')
\end{equation}
(ただし、積分変数を\(\bs{r}'\)のようにプライムをつけて強調した。)
前回の記事では静電エネルギーを電荷の持つ位置エネルギーと解釈し、 具体的な表式を導出しましたが、今回はその主体が静電場であるという解釈を解説します。 この単元の発展形として、電磁波のエネルギーがあるので基本から丁寧に押さえましょう。
まずは簡単に前回の解釈をおさらいしてみます。
静電エネルギーの意味は電荷が持つ電気的な位置エネルギーである。
前の記事では上記のように、電荷が静電エネルギーの主体であり、電荷がある場所に対応する位置エネルギーとして 静電エネルギーは導入されました。(高校物理ではこの解釈を採用する)
しかし、電荷のある場所には電場も必ず存在するため、実は電場こそがエネルギーの主体なのではないか、という 見方もできそうです。
静電エネルギーの意味は電場が保持しているエネルギーである。
もし、電荷や電場が時間に依存しないならば、電荷と電場は一対一で対応する(つまり、与えられた電荷から電場を一意に求められる) ので、どちらの解釈を採用しても矛盾せず、同じ静電エネルギーの値を求められます。
よって、両者はエネルギーを見る視点の違いとして理解されます。(どちらか好きな方を選んで計算すればよい) しかし、系が時間に依存する場合、電場は電荷だけでなく、磁場の変化による電磁誘導からも生じるため、話はより複雑になります。 (詳しくは→電磁場のエネルギー)
静電場のエネルギーは以下で与えられる。 \begin{equation} U = \frac{\varep_{0}}{2} \int dV' \bs{E}^2(\bs{r}') \tag{\ref{electricenergy}} \end{equation} (ただし、積分変数を\(\bs{r}'\)のようにプライムをつけて強調した。)
冒頭でも紹介した静電場のエネルギーです。導出には、前回求めた連続電荷分布の時の 静電エネルギーの表式 \begin{eqnarray} \label{potentialenergy} U = \frac{1}{2} \int dV' \rho(\bs{r}') \phi(\bs{r}') \end{eqnarray} を使います。
静電エネルギーの表式 (\ref{potentialenergy})式を、電場のみで書かれた(\ref{electricenergy})式に書き換えます。
まずは(\ref{potentialenergy})式について、電荷密度\(\rho\)をガウスの法則 \begin{equation} \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r}) = {1 \over \varep_{0}}\rho(\bs{r}) \end{equation} を使って電場\(\bs{E}\)に置き換える。 \begin{equation} U = \frac{\varep_{0}}{2} \int dV' \phi(\bs{r}') \nabla' \cdot \bs{E}(\bs{r}') \end{equation} (ただし、\(\nabla'\)は\(\bs{r}'\)にかかる微分を表す。)ここで、\(\nabla\)の積の微分公式 \begin{eqnarray} & & \nabla \cdot \bigl(\phi(\bs{r}) \bs{E}(\bs{r}) \bigr) \nonumber \\ &=& \phi(\bs{r}) \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r})+\bs{E}(\bs{r}) \cdot \nabla \phi(\bs{r}) \end{eqnarray} を使うと、 \begin{eqnarray} U &=& \frac{\varep_{0}}{2} \int dV' \nabla' \cdot \bigl(\phi(\bs{r}') \bs{E}(\bs{r}') \bigr) \nonumber \\ \label{calculation} &-& \frac{\varep_{0}}{2} \int dV' \bs{E}(\bs{r}') \cdot \nabla' \phi(\bs{r}') \end{eqnarray} のようにできる。
第1項はガウスの定理より、 \begin{eqnarray} & & \frac{\varep_{0}}{2} \int_{V} dV' \nabla' \cdot \bigl(\phi(\bs{r}') \bs{E}(\bs{r}') \bigr) \nonumber \\ &=& \frac{\varep_{0}}{2} \int_{\partial V} \phi(\bs{r}') \bs{E}(\bs{r}') \cdot \bs{n} dS \end{eqnarray} と変形できる。ここに、積分領域をあらわに明示した。 そして、\(\partial V\)は積分領域\(V\)の表面を表す。
さて、\(V\)を全空間だと思うと、\(\partial V\)は半径∞の球面、即ち無限遠である。 静電ポテンシャルと電場は無限遠で\(0\)なのでその積分も\(0\)である。 (より厳密にはオーダーを調べる必要があります。詳しくは→積分のオーダー評価)
(\ref{calculation})式の右辺第1項は\(0\)になると分かったので、第2項に注目する。 公式\(\bs{E}(\bs{r})=-\nabla \phi(\bs{r})\)を使って\(\nabla \phi(\bs{r})\)を消去すると 最終的な表式として \begin{equation} U = \frac{\varep_{0}}{2} \int_{V} dV' \bs{E}^2(\bs{r}') \tag{\ref{electricenergy}} \end{equation} が出せた。以上より、(\ref{electricenergy})が成り立つことが言えた。
単位体積\(dV\)あたりのエネルギーをエネルギー密度とよぶ。 静電場の場合、エネルギー密度\(u_{E}(\bs{r})\)は \begin{equation} \label{electricenergy2} u_{E}(\bs{r}) = \frac{\varep_{0}}{2} \bs{E}^2(\bs{r}) \end{equation} である。
静電場のエネルギーは(\ref{electricenergy})式のように体積積分で与えられていますが、 これの被積分関数をエネルギー密度と呼びます。
(\ref{electricenergy2})式の特徴として、右辺が電場自身の二乗に比例していることが挙げられます。 似たような例として波のエネルギーがあり、これも自身の振幅の二乗に比例します。 この類似性は偶然ではなく、電場や磁場が波として伝わる現象、電磁場の示唆になっています。