電荷の静電エネルギー

電荷の静電エネルギー

静電ポテンシャルによって生じる電気的なエネルギーを静電エネルギーと呼ぶ。
例えば、点電荷\(q\)が、電位\(\phi(\bs{r})\)の中において持つ静電エネルギーは \begin{equation} \label{potentialenergy0} U=q \phi(\bs{r}) \end{equation} である。

静電力にも重力と同じように位置エネルギーを定義でき、静電力の場合これを 静電エネルギーと呼びます。 この単元の発展形として、電場のエネルギーや、電磁波のエネルギーなどがあるので基本をしっかり押さえましょう。

静電ポテンシャルについてまだ未習の人は先にこちらからどうぞ。

ちなみに、静電エネルギーの単位は普通のエネルギーと同じであり、 SI単位系では[J](ジュール)、cgs単位系では[erg](エルグ)です。エルグとジュールの 関係は\(1[J]=10^7 [\mathrm{erg}]\)です。

物理的な解釈(レベル1)

静電エネルギーの解釈その1

静電エネルギーの意味は電荷が持つ電気的な位置エネルギーである。

以前の記事で静電ポテンシャルとは電荷あたりの位置エネルギーに対応すると紹介しました。 今回説明する静電エネルギーは静電ポテンシャルに電荷を掛けたものに相当し、位置エネルギーそのものに対応すると解釈できます。

後述するように、点電荷\(q\)が、電位\(\phi(\bs{r})\)の中において持つ静電エネルギーは \begin{equation} U=q \phi(\bs{r}) \tag{\ref{potentialenergy0}} \end{equation} ですが、これは確かに重力の位置エネルギー \begin{equation} U_{g}= m \Phi(\bs{r}) \end{equation} と類似しています。ここに、\(\Phi(\bs{r})\) は重力ポテンシャルで質点の場合 \begin{equation} \Phi(\bs{r}) = -\frac{GM}{|r|} \end{equation} です。(詳しくは→重力ポテンシャル)
これも静電ポテンシャルの形と酷似しており、重力と静電力の類似性から、 確かに静電エネルギーが電気的な位置エネルギーに対応していることが確認できます。

ただし、電荷ではなく電場が静電エネルギーの主体とする見方もあります。(電磁波のエネルギーはこの解釈の派生です。) 両者の違いなど詳しくは→電場の静電エネルギーからどうぞ。

この記事では理解しやすい電荷による解釈を採用します。

点電荷の静電エネルギー(レベル1)

点電荷二つの静電エネルギー

点電荷の静電エネルギーは、ある点電荷を固定し、無限遠から別の点電荷を準静的に動かした 時の仕事に等しい。

前者の電荷を\(q_{1}\)、後者を\(q_{2}\)とした時、静電エネルギーは \begin{equation} \label{potentialenergy1} U_{1 \leftarrow 2}=q_{2} \phi_{1}(\bs{r}) \end{equation} である。ただし、\(\phi_{1}(\bs{r})\)は電荷\(q_{1}\)が作る電場に 対応する静電ポテンシャル。

二つの点電荷の間に生じる静電エネルギーです。万有引力の時と同様に、無限遠を基準 にして静電エネルギーを測ります。具体的な計算は以下の通りです。

計算

仕事を具体的に計算して静電エネルギーを導きます。

原点に電荷\(q_{1}\)を静止させたまま、無限遠から電荷\(q_{2}\)を近づける。 ここで、最初、無限遠で\(q_{2}\)は静止していたとする。

さて、無限遠から非常にゆっくりと、速度がほぼ\(0\)を保持したまま\(q_{2}\)を\(q_{1}\)へ近づけたとする。(この近づけ方を 準静的に近づけると呼ぶ。)すると、この操作の前後では速度が\(0\)なので、運動エネルギーの差は \(0\)であり、ゆえになされた仕事はそのまま位置エネルギーに等しい。

加えられた力は、同じ符号の電荷が反発することを考慮に入れると \(\bs{F}_{1 \leftarrow 2}(\bs{r})=-q_{2} \bs{E}_{1}(\bs{r})\)である。(ただし、\(\bs{E}_{1}(\bs{r})\) は\(q_{1}\)がつくる電場。)これをもとに仕事を計算すればよい。

無限遠の座標ベクトルを\(\bs{R}\)と置き(あとで無限大の極限を取る)、ここから座標\(\bs{r}\)まで積分経路を走らせる。 積分変数を\(\bs{r}'\)と表記すると、仕事\(W_{1 \leftarrow 2}\)は \begin{eqnarray} W_{1 \leftarrow 2} &=& \int_{\bs{R}}^{\bs{r}} \bs{F}_{1 \leftarrow 2}(\bs{r}') \cdot d \bs{r}' \nonumber \\ &=& - \int_{\bs{R}}^{\bs{r}} q_{2} \bs{E}_{1}(\bs{r}') \cdot d \bs{r}' \nonumber \\ &=& q_{2} \int_{\bs{R}}^{\bs{r}} \nabla \phi_{1}(\bs{r}') d \bs{r}' \nonumber \\ \end{eqnarray} まで変形できる。ただし、途中で静電ポテンシャルと電場の関係式\(\bs{E}(\bs{r})=-\nabla \phi(\bs{r})\) を使った。

さて、線積分について、静電力は保存力なので積分経路を常にいずれかの座標軸に平行 (x軸に平行→y軸に平行→z軸に平行)になるように変更してもよく \begin{eqnarray} & &\int_{\bs{R}}^{\bs{r}} (- \nabla \phi_{1}(\bs{r})) \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=& -\int_{X}^{x}\pdiff{\phi_{1}}{x}(x',Y,Z) dx' \nonumber \\ & \ & -\int_{Y}^{y} \pdiff{\phi_{1}}{y}(x,y',Z) dy \nonumber \\ & \ & -\int_{Z}^{z} \pdiff{\phi_{1}}{z}(x,y,z') dz' \end{eqnarray} のように分解できる。それぞれはただの定積分なので容易に積分を実行でき、 (計算過程は電位と電圧の記事が参考になる) 最終的な結果 \begin{eqnarray} W_{1 \leftarrow 2} &=& q_{2}(\phi_{1}(\bs{r})-\phi_{1}(\bs{R})) \nonumber \\ &=& q_{2} \phi_{1}(\bs{r}) \end{eqnarray} を得る。ただし、\(\bs{R}\)を無限遠にする極限で \(\phi(\bs{R}) \to 0\)になるように静電ポテンシャルの基準をとった。

さて、この\(W_{1 \leftarrow 2}\)が静電ポテンシャル\(U_{1\leftarrow 2}\)と 等しかったので以上より \begin{equation} U_{1 \leftarrow 2}(\bs{r})=q_{2} \phi_{1}(\bs{r}) \end{equation} が得られた。以上の議論は電荷\(q_{1}\)が原点以外の場所にあっても同様である。

さて、クーロンの法則から電荷\(q_{1}\)の位置を\(\bs{r}_{1}\)とした時、 \begin{equation} \phi_{1}(\bs{r}) = \frac{1}{4 \pi \varep_{0}}\frac{q_{1}}{|\bs{r}_{1}-\bs{r}|} \end{equation} であるのでこれを(\ref{potentialenergy1})式へ代入すると \begin{equation} U_{1 \leftarrow 2}(\bs{r}_{2}) = \frac{1}{4 \pi \varep_{0}}\frac{q_{1}q_{2}}{|\bs{r}_{1}-\bs{r}_{2}|} \end{equation} となります。(ただし、\(\bs{r}_{2}\)は\(q_{2}\)の位置) 右辺は2つの電荷間の距離\(r_{12}=|\bs{r}_{1}-\bs{r}_{2}|\)によって決まるので、 以下では \begin{equation} U_{1 \leftarrow 2}(r_{12}) = \frac{1}{4 \pi \varep_{0}}\frac{q_{1}q_{2}}{r_{12}} \end{equation} と表記することにします。

同様の議論を電荷\(q_{1}\)と\(q_{2}\)を入れ替えて行ってみます。 結果は、上の表式において\(q_{1},\bs{r}_{1}\)と\(q_{2},\bs{r}_{2}\)をそれぞれ置き換えたものに等しく、 \begin{equation} U_{2 \leftarrow 1}(r_{21}) = \frac{1}{4 \pi \varep_{0}}\frac{q_{1}q_{2}}{r_{21}} \end{equation} です。ここで\(r_{21}=r_{12}\)なので、右辺が\(U_{1 \leftarrow 2}(r_{12})\)と等しいことが確認できます。 つまり、静電エネルギーは2つの電荷の入れ替えに対し対称であるということです。

点電荷の静電エネルギーの性質

点電荷の静電エネルギーは2つの電荷の入れ替えに対し対称。 例えば、\(q_{1}\)、\(q_{2}\)について \begin{equation} U_{2 \leftarrow 1}(r_{12}) = U_{1 \leftarrow 2}(r_{12}) \end{equation} である。つまり、静電エネルギーはどちらを動かしたかに関わらず、 電荷間の距離にのみ依存する。

電荷のどちらが動くかは、観測者の見え方次第です。例えば、電荷\(q_{1}\)に乗っている人からは 電荷\(q_{2}\)が自身の方へ近づいてくるように見えますし、その逆もまた然りです。上の性質は 観測者の見え方によってエネルギーは変わらないという事実を表しています。

さて、上の性質より、2つを区別することなく、\(U_{12} = U_{1 \leftarrow 2}= U_{2 \leftarrow 1}\) と置くことができます。そして、これらが対称ということは、いずれか一方の電荷が 静電エネルギーを保持しているのではなく、両者がそれぞれ位置エネルギーを持っているのだと予想できます。 つまり、2つの電荷はお互いに電場によって作用し合い、位置エネルギーが発生しているということです。

そこで、この\(U_{12}\)は2つの電荷の静電エネルギーをまとめたもの思って 一つの電荷あたりに分解してみましょう。 \(U_{12} = U_{1 \leftarrow 2}= U_{2 \leftarrow 1}\)より、\(U_{12} = q_{2} \phi_{1}(\bs{r}_{2})= q_{1} \phi_{2}(\bs{r}_{1})\) なので、 \begin{eqnarray} U_{12}(r_{12}) &=& \frac{1}{2}q_{1}\phi_{2}(\bs{r}_{1})+\frac{1}{2}q_{2}\phi_{1}(\bs{r}_{2}) \nonumber \\ &=& \frac{1}{2}q_{1}\phi(\bs{r}_{1})+\frac{1}{2}q_{2}\phi(\bs{r}_{2}) \nonumber \\ &=& \frac{1}{2}\sum_{i=1,2} q_{i}\phi(\bs{r}_{i}) \end{eqnarray} となります。ここに、\(\phi(\bs{r})\)は静電ポテンシャルの重ね合わせであり、 電荷は自身の静電ポテンシャルの影響を受けないとして \begin{eqnarray} \phi(\bs{r}) = \begin{cases} \phi_{1}(\bs{r}) & \bs{r} = \bs{r}_{2} \\ \phi_{2}(\bs{r}) & \bs{r} = \bs{r}_{1} \\ \phi_{1}(\bs{r}) + \phi_{2}(\bs{r}) & それ以外 \end{cases} \end{eqnarray} と置きました。(計算上は単に発散する\(\phi_{1}(\bs{r}_{1}),\phi_{2}(\bs{r}_{2})\)を取り除いたということ。)

以上より、電荷一つあたりの静電エネルギーは \begin{equation} \label{particleenergy} U_{i} = \frac{1}{2} q_{i}\phi(\bs{r}_{i}) \end{equation} のようになることが分かりました。

ここまで点電荷を2つしか扱ってきませんでしたが、静電エネルギーは点電荷が3つ以上の場合でも 同様に計算できます。そして一つあたりのエネルギーも(\ref{particleenergy})式と同じ形になります。 以上の結果をまとめると以下が言えます。

点電荷の静電エネルギー

点電荷が\(n\)個の時、静電エネルギーは次で与えられる。 \begin{eqnarray} \label{nparticleenergy} U = \frac{1}{2}\sum_{i=1}^{n} q_{i}\phi(\bs{r}_{i}) \end{eqnarray} ただし、\(\phi(\bs{r})\)は\(n\)個の電荷の静電ポテンシャルの重ね合わせ。 (ただし、発散する因子は取り除く)

連続電荷分布の静電エネルギー(レベル1)

連続電荷分布の静電エネルギー

電荷が点ではなく、連続して分布している時、静電エネルギーは以下で与えられる。 \begin{eqnarray} \label{potentialenergy} U = \frac{1}{2} \int dV' \rho(\bs{r}') \phi(\bs{r}') \end{eqnarray} ただし、積分変数をプライムをつけて\(\bs{r}'\)のように強調した。

電荷が連続して分布している場合の静電エネルギーです。 \begin{eqnarray} U = \frac{1}{2}\sum_{i=1}^{n} q_{i}\phi(\bs{r}_{i}) \tag{\ref{nparticleenergy}} \end{eqnarray} について連続極限をとると得られます。

導出

(\ref{nparticleenergy})式について、電荷\(q_{i}\)が微小な体積\(\Delta V_{i}\)を持っている と思うと、電荷密度の定義から \begin{equation} \label{chargedens} q_{i}=\lim_{\Delta V_{i} \to 0} \rho(\bs{r}_{i}) \Delta V_{i} \end{equation} とかける。点電荷が存在しない領域に対しては当然\(\rho(\bs{r}_{i})=0\)であるが、 この\(\rho(\bs{r}_{i})\)を全空間で足し上げることを考える。 即ち、(\ref{nparticleenergy})式において\(n \to \infty\)の極限を考える。

(\ref{chargedens})式を(\ref{nparticleenergy})に代入して、 さらに\(n \to \infty\)の極限を取ると \begin{eqnarray} U &=& \frac{1}{2} \lim_{\Delta V_{i} \to 0,n \to \infty} \sum_{i=1}^{n} \rho(\bs{r}_{i}) \phi(\bs{r}_{i}) \Delta V_{i} \nonumber \\ &=& \frac{1}{2} \int dV' \rho(\bs{r}') \phi(\bs{r}') \tag{\ref{potentialenergy}} \end{eqnarray} となる。

この表式は単に(\ref{nparticleenergy})式の拡張というだけでなく、次に説明する電場の静電エネルギーに つながります。