静電場\(\bs{E}(\bs{r})\)に対して、以下を満たす静電ポテンシャル\(\phi(\bs{r})\)が 存在する。 \begin{equation} \label{scalerpotential} \bs{E}(\bs{r})=- \nabla \phi(\bs{r}) \end{equation}
保存力のポテンシャルと同様に、静電場には 静電ポテンシャルを定義できます。静電ポテンシャルの基本事項について簡単にまとめました。 静電力が保存力である証明は中心力の記事からどうぞ
静電ポテンシャルは電荷あたりのポテンシャル(位置エネルギー)。 つまり、その勾配(傾き)が電場の強さを表す。また、静電ポテンシャル\(\phi(\bs{r})\)のことを電位 とも呼ぶ。
静電力\(\bs{F}=q\bs{E}(\bs{r})\)は保存力なので、以下のようにポテンシャル \begin{equation} q\bs{E}(\bs{r})=- \nabla U(\bs{r}) \end{equation} が定義できます。これと冒頭の式 \begin{equation} \bs{E}(\bs{r})=- \nabla \phi(\bs{r}) \tag{\ref{scalerpotential}} \end{equation} を見比べると、\(\phi(\bs{r})=\frac{1}{q}U(\bs{r})\)が成り立ち、つまりは \(\phi(\bs{r})\)が電荷あたりのポテンシャルを表していると言えます。 ちなみに、静電ポテンシャルのことを電位とも呼びます。 高校物理ではこちらの方が馴染みがあるかもしれません。
つづいて、静電ポテンシャルを導入する利点を紹介します。 いくつかありますが、実感しやすいのは以下でしょう。
一般に、電荷が作る電場を計算したいとき、直接求めるよりも 先に静電ポテンシャルを求めた方が楽な場合が多い。
保存力の場合、ポテンシャル\(U(\bs{r})\)が分かれば、公式 \begin{equation} \bs{F}(\bs{r})=- \nabla U(\bs{r}) \end{equation} を使って保存力\(\bs{F}(\bs{r})\)が求まるのでした。 (忘れている人は→保存力を参照。)
同様に、先に\(\phi(\bs{r})\)を求めれば、 (\ref{scalerpotential})式で\(\bs{E}(\bs{r})\)を導くことができます。 そして、静電ポテンシャルはスカラーなので、ベクトルの電場より扱いやすく、計算が楽な場合が多いです。 このため、静電ポテンシャルはよく用いられます。
静電ポテンシャルは電場と比べて抽象的ですが、位置エネルギー(またはポテンシャル)のようなものだと考えると イメージがつきやすいと思います。
重ね合わせの原理から導かれる電場
\begin{equation}
\label{electricfield}
\bs{E}(\bs{r})= \frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \int \frac{\bs{r}-\bs{r}'}{|\bs{r}-\bs{r}'|^3} \rho(\bs{r}') dV'
\end{equation}
に対応する静電ポテンシャルは
\begin{equation}
\label{electricpotantial}
\phi(\bs{r})= \frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \int \frac{1}{|\bs{r}-\bs{r}'|} \rho(\bs{r}') dV'
\end{equation}
で与えられる。ただし、積分変数を\('\)をつかって区別した。
(例えば、
\(dV'=dx'dy'dz'\)なので、\(\bs{r}'=(x',y',z')\)は積分されるが、\(\bs{r}=(x,y,z)\)は積分されないので注意。)
クーロンの法則の、重ね合わせの電場に対応する静電ポテンシャルです。 空間に分布する電荷密度\(\rho(\bs{r})\)と、それから生じる静電ポテンシャルの関係を与えます。
さて、この\(\phi(\bs{r})\)が本当に静電ポテンシャルなのかを確かめるために (\ref{electricpotantial})式の勾配を取ってみます。すると \begin{equation} \label{gradientform} \nabla \frac{1}{|\bs{r}-\bs{r}'|}=-\frac{\bs{r}-\bs{r}'}{|\bs{r}-\bs{r}'|^3} \end{equation} が成り立つので、((\ref{gradientform})式の導出は→スカラーの勾配) (\ref{electricpotantial})式と(\ref{electricfield})式の間には確かに \begin{equation} \bs{E}(\bs{r})=- \nabla \phi(\bs{r}) \tag{\ref{scalerpotential}} \end{equation} が成り立っています。
ここから先、\(\rho(\bs{r})\)が具体的に分かれば、積分(\ref{electricpotantial})式を実行し、 \(\phi(\bs{r})\)が得られ、それの勾配を取ると\(\bs{E}(\bs{r})\)が導けます。 (\ref{electricfield})式の積分を直接実行しないのは、(\ref{electricpotantial})式の積分に比べて計算が複雑になるからです。
それでは例題として、原点に点電荷のみがある場合を考えてみましょう。 原点のみに電荷が集中している時は、電荷密度はデルタ関数に よって書け、積分は簡単に実行できます。 (デルタ関数について詳しくは→デルタ関数とその諸性質)
原点に点電荷\(Q\)がある場合を考える。この時\(\rho(\bs{r})\)は
\begin{equation}
\rho(\bs{r})=Q \delta(x)\delta(y)\delta(z)
\end{equation}
で表せる。これは確かに\(Q=\int dV \rho(\bs{r})\)を満たす。
この\(\rho(\bs{r})\)を(\ref{electricpotantial})式の右辺に代入する。
積分変数とそれ以外の変数に注意して積分すると、\(\bs{r}'=0\)のみが
残って、
\begin{equation}
\phi(\bs{r})= \frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \frac{Q}{|\bs{r}|}
\end{equation}
を得る。以上より、よく知る点電荷のクーロンポテンシャルの形に帰着された。
あとはこれの勾配をとれば、点電荷に対応する電場
\begin{equation}
\bs{E}(\bs{r})= \frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \frac{Q}{|\bs{r}|^2} \hat{\bs{r}}
\end{equation}
を得る。ただし、勾配を取るとき公式(\ref{gradientform})式を使った。
その他の静電ポテンシャルの求め方/例題について詳しくは 静電ポテンシャルの計算の記事を見てください。
静電ポテンシャルのこの表式は、マクスウェル方程式でいうところのいわば積分形に相当します。 一方、微分形に対応する表式は以下に示すラプラス方程式によって書かれるものです。
静電ポテンシャル\(\phi(\bs{r})\)は以下の微分方程式を満たす。 \begin{equation} \label{Poisson} \nabla^2 \phi(\bs{r})=-{\rho(\bs{r}) \over \varep_{0}} \end{equation} また、この形の微分方程式をポアソン方程式と呼ぶ。
静電ポテンシャルが満たす微分方程式です。マクスウェル方程式でいうところの微分形に 相当する式ですね。この方程式を解くと\(\phi(\bs{r})\)が得られます。
ちなみに、上で紹介した積分表式(\ref{electricpotantial})式は(とある境界条件のもとで)この微分方程式の解になっています。
微分形の存在意義についてはこちらを参照。
また、この形の微分方程式はポアソン方程式と呼ばれ、特に右辺が\(0\)、つまり
\(\rho(\bs{r})=0\)の場合の方程式をラプラス方程式と呼びます。
(これらの微分方程式について詳しくは→ラプラス方程式、ポアソン方程式)
ここでは、静電場の基本法則から簡単に(\ref{Poisson})式を導きます。例題については 静電ポテンシャルの計算の記事を見てください。
静電場の基本法則は \begin{eqnarray} \label{Gauss} \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r})&=&\frac{\rho(\bs{r})}{\varep_{0}} \\ \label{static} \nabla \times \bs{E}(\bs{r})&=&0 \end{eqnarray} の二つでした。 (\ref{static})式は \begin{equation} \bs{E}(\bs{r})=- \nabla \phi(\bs{r}) \tag{\ref{scalerpotential}} \end{equation} と同値なので(なぜ同値なのかについては→下のギモンからどうぞ。) ここでは(\ref{scalerpotential})式の方を使います。
(\ref{scalerpotential})式を(\ref{Gauss})式に代入する。すると 速やかに \begin{equation} \nabla^2 \phi(\bs{r})=-{\rho(\bs{r}) \over \varep_{0}} \tag{\ref{Poisson}} \end{equation} を得る。
静電ポテンシャルには、ポテンシャルと同じく定数だけ不定性がある。
つまり、\(\phi(\bs{r})\)と\(\tilde{\phi}(\bs{r})=\phi(\bs{r})+C\)は物理的に同じ意味。 この定数分のズレは、基準を選択する自由度に対応する。
ポテンシャル(位置エネルギー)については、基準をずらしても変わらないという性質が あるのでした。これは、静電ポテンシャルでも同じことが言えます。
例えば、\(\phi(\bs{r})\)と\(\tilde{\phi}(\bs{r})=\phi(\bs{r})+C\)はいずれも (\ref{scalerpotential})式に代入すると同じ電場\(\bs{E}(\bs{r})\)を返します。 なので、両者は物理的に等しいと言えます。
電位と電圧の記事でも述べたように、静電ポテンシャルは電位そのものなので、定数分だけ足し引きしても同じ とみなすのは、電位の基準をどこに取るか(どこを電位\(0\)の点に取るか)に対応しています。 普通、この基準は無限遠で\(\phi(\bs{r})\)が\(0\)になるように取ります。
この性質は数学的に表現もできます。\(\phi(\bs{r})\)を 微分方程式(\ref{Poisson})式の解として定めると、ポアソン方程式の性質から、必ず定数だけ 不定性が残ることが知られています。
ポアソン方程式の解は定数のズレの不定性をのぞき一意に定まる。
つまり、\(\phi(\bs{r})\)と\(\tilde{\phi}(\bs{r})=\phi(\bs{r})+C\)は同じポアソン方程式 を満たす。
この性質の詳細についてはポアソン方程式の記事を参照してください。
ちなみに、ポアソン方程式の解\(\phi(\bs{r})\)について、新たに\(\Phi(\bs{r})\)を \begin{equation} \Phi(\bs{r})=\phi(\bs{r})+\nabla \times \bs{V}(\bs{r}) \end{equation} として用意すると、回転の発散は\(0\)なので一見(\ref{Poisson})式の解になるのでは、と思うかもしれません。
ところが、ベクトルの回転もまたベクトルであることを思い出すと、右辺はベクトル、左辺はスカラーなのでこれは等式として 成り立っておらず、そのような\(\Phi(\bs{r})\)はありえないことが分かります。勘違いしないよう気をつけましょう。
静電ポテンシャルの定義式 \begin{equation} \bs{E}(\bs{r})=- \nabla \phi(\bs{r}) \tag{\ref{scalerpotential}} \end{equation} と静電場渦なしの法則 \begin{eqnarray} \nabla \times \bs{E}(\bs{r})=0 \tag{\ref{static}} \end{eqnarray} は同値(必要十分条件)である。
このサイトでは一貫して、 「静電力は中心力の重ね合わせなので保存力である →保存力ならばポテンシャルを定義できる((\ref{scalerpotential})を満たす\(\phi(\bs{r})\)が 存在する)→静電場渦なしの法則が導ける」 という論理の流れで説明してきましたが、実は(\ref{scalerpotential})式と (\ref{static})式は同値(全く同じ意味)です。なので、先に静電場渦なしの法則が成り立つと仮定すれば、上述の論理を逆にたどって、静電ポテンシャルの存在や 静電力が保存力であることが導けます。
これをより一般化したものにヘルムホルツの分解定理がありますが、ここではそこまで深入りせず、 単に(\ref{scalerpotential})式と (\ref{static})式の同値性を示します。
まず必要性((\ref{scalerpotential})式→(\ref{static})式)を示し、 その後、十分性((\ref{static})式→(\ref{scalerpotential})式)を示す方針で行きます。
必要性について、これは(\ref{scalerpotential})式の両辺の回転を取ると、右辺は\(\nabla \times \nabla \phi(\bs{r})=0\) (勾配の回転が0の公式。詳しくは→ナブラの公式(基本編))より、 \begin{eqnarray} \nabla \times \bs{E}(\bs{r})=0 \tag{\ref{static}} \end{eqnarray} を得るので示せた。
十分性について、(\ref{static})式の両辺を面積分すると、ストークスの定理 \begin{equation} \int_{S} \nabla \times \bs{E} (\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r})\mathrm dS = \oint_{C} \bs{E}(\bs{r}) \cdot d \bs{l} \end{equation} より、(ストークス定理の定理についてはこの記事参照。) \begin{eqnarray} \oint_{C} \bs{E}(\bs{r}) \cdot d \bs{l} =0 \end{eqnarray} であって、これは線積分が経路によらないことを表す。(保存力の定義と同じ条件式) つまり、経路によらないならば、線積分を単に始点と終点の座標だけで計算できるので \begin{eqnarray} \label{intline} \int_{C} \bs{E}(\bs{r}) \cdot d \bs{l} = \int_{\bs{r}_{i}}^{\bs{r}_{f}} \bs{E}(\bs{r}) \cdot d \bs{l} \end{eqnarray} のように書けることである。(\(\bs{r}_{i},\bs{r}_{f}\)はそれぞれ始点、終点の座標)今、保存力からの類推から、 \begin{eqnarray} \phi(\bs{r})=-\int_{\bs{r}_{0}}^{\bs{r}} \bs{E}(\bs{r}) \cdot d \bs{l} \end{eqnarray} を考えてみる。 (ただし、\(\bs{r}_{0}\)は定数のベクトル) するとこれは(\ref{intline})より、(線積分であるが経路によらず)一意に定まり、数学的に よく定義された量になっている。
そしてこれの勾配を取ってみると \begin{equation} \nabla \phi(\bs{r})=-\bs{E}(\bs{r}) \end{equation} となるため(これの導出はポテンシャルの時と同じです。詳しくは→ポテンシャル参照。) 以上より、(\ref{static})式から出発して(\ref{scalerpotential})式が言えたので十分性が示せた。