保存力

保存力

仕事が経路によらないような力を保存力と呼ぶ。 つまり、保存力に異なる経路\(C_{A}\)、\(C_{B}\)でそれぞれ仕事をさせた時、 \begin{equation} \label{def} \int_{C_{A}} \bs{F} \cdot d \bs{r}=\int_{C_{B}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \end{equation} が成り立つ。

保存力とは、高校物理では エネルギーが保存する力または、位置エネルギーが定義できる力とも 紹介されますが、大本の定義は仕事によって与えられるものです。 仕事について詳しくは→こちらから

今回は保存力について簡単にまとめました。

保存力/非保存力の具体例(レベル1)

高校物理でも知られていますが、万有引力 \begin{equation} \bs{F}=-G\frac{Mm}{r^2} \hat{\bs{r}} \end{equation} や静電力 \begin{equation} \bs{F}=\frac{1}{4 \pi \varep_{0}}\frac{Qq}{r^2} \hat{\bs{r}} \end{equation} は保存力です。保存力の判定法は以下のギモン参照。 これらは保存力であるため、仕事が経路に依らず、後述するように位置エネルギー に対応するポテンシャルを定義することができます。

ちなみに、一般に中心力(\(\bs{r}\)方向に働く力)は保存力であることが証明できます。
詳しくは→中心力とその諸性質

反対に、非保存力の代表に、摩擦力などの抵抗力があります。 例えば、飛行機を例に考えると、飛行機は飛ぶルートによって(目的地が同じでも) 使う燃料が違います。これは、飛行機にかかる抵抗力が非保存力であって、 仕事が経路に依存するからです。例えば、遠回りすると燃料を余計に消費します。

保存力の性質(レベル1)

保存力の性質その1

保存力の仕事について、特に一周する経路での仕事は\(0\) つまり、 \begin{equation} \label{oint} \oint_{C} \bs{F} \cdot d \bs{r}=0 \end{equation} である。(\(\oint\)は周回積分を表す。)

保存力の持つ重要な性質です。この性質は保存力の定義と同値なため、後述するように保存力の判定にも 使われます。

証明

仕事の定義 \begin{equation} \int_{C_{A}} \bs{F} \cdot d \bs{r} =\int_{C_{B}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \tag{\ref{def}} \end{equation} から始める。今、\(C_{B}\)を逆走する経路を\(C_{-B}\)と置くと、 この経路での仕事について、 \begin{equation} \int_{C_{-B}} \bs{F} \cdot d \bs{r} =-\int_{C_{B}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \end{equation} が成り立つ。

そして、経路\(C_{A}\)を通った後、 経路\(C_{-B}\)を通って元の出発点へ戻ってくる(つまり一周する) 経路を\(C_{A}+C_{-B}\)と置く。すると、この経路での仕事は \begin{eqnarray} & \ &\int_{C_{A+ (-B)}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=& \int_{C_{A}} \bs{F} \cdot d \bs{r}+\int_{C_{-B}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=& \int_{C_{A}} \bs{F} \cdot d \bs{r}-\int_{C_{B}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=& 0 \end{eqnarray} より、\(0\)になる。ただし、最後の行で(\ref{def})式を使った。

最後に、この一周する経路での積分を\(\oint\)と書くことにすると、 (\ref{oint})式がいえた。

保存力の性質その2

保存力の仕事について、始点を\(\bs{x}_{i}\)、終点を\(\bs{x}_{f}\) とした時、以下のように書ける。 \begin{equation} \label{preservationwork} W= \int_{\bs{x}_{i}}^{\bs{x}_{f}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \end{equation} また、以下のようにポテンシャルを定義することができる。 \begin{equation} \label{potential} U(\bs{r})= -\int_{\bs{r}_{0}}^{\bs{r}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \end{equation}

保存力の定義から、あえて軌跡を明示せず、始点と終点の座標だけで 仕事を計算することができます。

また、(\ref{preservationwork})式の符号を反転させ、終点を変数\(\bs{r}\)だと 思うことで、所謂位置エネルギーに対応するポテンシャルを定義することができます。 (\(\bs{r}_{0}\)がポテンシャルの基準になっています。)
より詳しくは→ポテンシャル

(\ref{preservationwork})式と(\ref{potential})式より、両者の間には \begin{eqnarray} W &=& \int_{\bs{r}_{i}}^{\bs{r}_{f}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=& \int_{\bs{r}_{0}}^{\bs{r}_{f}} \bs{F} \cdot d \bs{r}-\int_{\bs{r}_{0}}^{\bs{r}_{i}} \bs{F} \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=& U(\bs{r}_{i})-U(\bs{r}_{f}) \end{eqnarray} が成り立ちます。つまり、保存力が正の仕事をすると、\(U(\bs{r}_{i})-U(\bs{r}_{f})>0\)になる ので、蓄えられていたポテンシャルが消費されるというわけです。 仕事と運動エネルギーの関係式 \begin{equation} W=\frac{1}{2}m\bs{v}_{f}^2-\frac{1}{2}m\bs{v}_{i}^2 \end{equation} より、この差分が仕事をした先の物体の運動エネルギーに変換されます。
(ただし、これは物体に一つの保存力しか働いていない場合です。複数の力が働いていたり、 保存力でない力が混じった場合の議論はポテンシャルの記事からどうぞ。)

余談:添え字の\(i\)や\(f\)は\(\mathrm{initial}\)や\(\mathrm{final}\)の頭文字からとってます。
保存力の性質その3

保存力とポテンシャルの間には関係式 \begin{equation} \label{relation} \bs{F}(\bs{r})=-\nabla U(\bs{r}) \end{equation} が成り立つ。

ポテンシャル(\ref{potential})式が与えられると、(\ref{relation})式を使って保存力の各成分 を求めることができます。右辺の出ている記号\(\nabla\)はナブラといって \begin{equation} \nabla=\left( \begin{array}{c} \frac{\partial}{\partial x} \\ \frac{\partial}{\partial y} \\ \frac{\partial}{\partial z} \end{array} \right) \end{equation} のことです。つまり、(\ref{relation})式は真面目に書くと \begin{equation} \bs{F}=-\left (\begin{array}{c} \frac{\partial U}{\partial x} \\ \frac{\partial U}{\partial y} \\ \frac{\partial U}{\partial z} \end{array} \right) \end{equation} ということです。

逆に、保存力の成分が与えられたときに、ポテンシャルを 導出する時にも使えます。(計算については→ポテンシャル参照)

証明

まず、微小な変位\(\Delta \bs{r}=(\Delta x,\Delta y,\Delta z)\) だけ離れた二点におけるポテンシャルの差をとる。 \begin{eqnarray} & \ & U(\bs{r}+\Delta \bs{r})-U(\bs{r}) \nonumber \\ &=& -\int_{\bs{r}_{0}}^{\bs{r}+\Delta \bs{r}} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} +\int_{\bs{r}_{0}}^{\bs{r}} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=&-\int_{\bs{r}}^{\bs{r}+\Delta \bs{r}} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} \end{eqnarray} ここで、積分の幅\(\Delta \bs{r}\)が微小であれば、 \(\bs{F}(\bs{r})\)はその間ほぼ変化しないので、 あたかも定数のように 積分の外へ出してよい。 (より正確な議論はこちらからどうぞ)

ゆえに、 \begin{eqnarray} & \ &-\int_{\bs{r}}^{\bs{r}+\Delta \bs{r}} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} \nonumber \\ &=& -\bs{F} \cdot \int_{\bs{r}}^{\bs{r}+\Delta \bs{r}} d \bs{r} \nonumber \\ &=&-\bs{F} \cdot \Delta \bs{r} \nonumber \\ &=&-(F_{x} \Delta x+F_{y} \Delta y+F_{z} \Delta z) \end{eqnarray} まで計算できる。一方、左辺について、テイラー展開を実行すると、 \begin{eqnarray} & \ &U(\bs{r}+\Delta \bs{r})-U(\bs{r}) \nonumber \\ &=& U(x+\Delta x,y+\Delta y,z+\Delta z)-U(x,y,z) \nonumber \\ &=& \frac{\partial U}{\partial x} \Delta x +\frac{\partial U}{\partial y} \Delta y +\frac{\partial U}{\partial z} \Delta z \end{eqnarray} を得る。この二つの式を見比べて、 \begin{eqnarray} \begin{cases} F_{x}=-\frac{\partial U}{\partial x} \\ F_{y}=-\frac{\partial U}{\partial y} \\ F_{z}=-\frac{\partial U}{\partial z} \end{cases} \end{eqnarray} 即ち、(\ref{relation})式を得る。

保存力の判定法(レベル2)

保存力の判定法

\(\bs{F}\)が保存力であることと \begin{equation} \label{judge} \nabla \times \boldsymbol{F}=0 \end{equation} は同値。

万有引力など、知っている力の保存力かどうかの判定は容易ですが 未知の力が与えられたとき、保存力の判定に使えるのがこの公式です。 ちなみにですが、左辺はベクトルの外積と呼ばれるものです。
詳しくは→ベクトルの外積

証明

保存力の定義から \begin{equation} \oint_{C} \boldsymbol{F} \cdot d \boldsymbol{r}=0 \tag{\ref{oint}} \end{equation} であるが、ここにストークスの定理 (ストークスの定理について詳しくは こちらから) を左辺にを使うと \begin{equation} \oint_{C} \bs{F} \cdot d \bs{r} =\int_{S} \nabla \times \bs{F} \cdot \bs{n}(\bs{r})dS \end{equation} になる。これが\(0\)になるのだから、これは即ち、 \begin{equation} \nabla \times \bs{F}=0 \tag{\ref{judge}} \end{equation} である。これは逆(十分性)も同じく成り立つ。

保存力の性質として、 \begin{equation} \bs{F}(\bs{r})=-\nabla U(\bs{r}) \tag{\ref{relation}} \end{equation} が成り立ちますが、これと(\ref{judge})式が同値であることも同様にいうことができます。

証明

ポテンシャルと力の関係式 \begin{equation} \bs{F}(\bs{r})=-\nabla U(\bs{r}) \tag{\ref{relation}} \end{equation} について、両辺の回転を取ると、勾配の回転は\(0\)という ナブラの公式 から、右辺は\(0\)になるので \begin{equation} \nabla \times \bs{F}=0 \tag{\ref{judge}} \end{equation} が言えた。一方、逆に(\ref{judge})式が成り立っているとき、\(\bs{F}\)は 保存力である。ゆえに \begin{equation} \bs{F}(\bs{r})=-\nabla U(\bs{r}) \tag{\ref{relation}} \end{equation} が成り立つ。以上より十分性もいえたので、(\ref{relation})と(\ref{judge})は 同値である。