力学において仕事\(W\)とは以下の線積分で 定義される量 \begin{equation} \label{work} W= \int_{C} \bs{F} \cdot d \bs{r} \end{equation} である。ただし、\(C\)は線積分の経路であり、 力を受けた物体が移動した軌跡を表す。
仕事はエネルギーとも結びつく重要な概念です。大学では高校で定義したものを
三次元へ一般化したものを使います。ここに線積分とは、
移動した経路の線にそって行われる積分のことです。
この線積分について詳しくは→ベクトルの線積分を参照。
仕事について要点を簡単にまとめました。
(\ref{work})式は区分求積法を使って \begin{equation} \int_{C} \bs{F} \cdot d \bs{r} = \lim_{\Delta \bs{r}_{i} \to 0}\sum_{i=1}^{\infty} \bs{F}_{i} \cdot \Delta \bs{r}_{i} \end{equation} とも表せる。
(\ref{work})式は線積分が使われており、初見では高校との乖離に戸惑うかもしれませんが、 区分求積法の形に直すと、力と移動距離の内積を取り、その和を取っていることが分かります。
力と移動距離の内積が、微小な距離進んだ時の仕事に対応し、それを足し合わせることで 全体の仕事を表しているわけです。
今は三次元の運動を考えていますが、軌跡が直線的な場合、 線積分は普通の積分に一致します。例えば、経路が\(x\)軸に平行ならば \(\bs{F} \cdot d \bs{r}=F_{x} dx\)であって(\(F_{x}\)は\(\bs{F}\)の\(x\)成分とします。) (\ref{work})式は\(x_{i}\)を運動の始点、\(x_{f}\)は終点として \begin{equation} \label{straight} W= \int_{x_{i}}^{x_{f}} F_{x} dx \end{equation} になります。 \(y\)軸に平行な時も同様に、 \begin{equation} \label{straight2} W= \int_{y_{i}}^{y_{f}} F_{y} dy \end{equation} になります。
エネルギーと仕事の間には、以下の関係式が成り立つ。 \begin{equation} \label{enregy} \frac{1}{2}m\bs{v}_{1}^2+W=\frac{1}{2}m\bs{v}_{2}^2 \end{equation} ただし、\(\bs{v}_{1}\)は仕事を受ける前の速度、 \(\bs{v}_{2}\)は仕事を受ける後の速度。
高校物理でも有名な、仕事した分だけエネルギーが増減する、 という式です。 この式から、エネルギーと仕事が等価であることがわかります。 また、後々出てくる保存力/非保存力の違いにかかわらず、この関係が 成り立つことにも注意です。
運動方程式 \begin{equation} m \frac{d^2}{dt^2} \bs{x}=\bs{F} \end{equation} から出発して、(\ref{enregy})式を導く。 まず、右辺を\(x\)で積分すると \begin{equation} \int_{C} \bs{F} \cdot d \bs{x}=W \end{equation} となり、仕事になる。
つづいて左辺も計算する。今、 \(d \bs{x}=\bs{v} dt\)及び、 \(\frac{d}{dt} \bs{v}^2=2 (\frac{d^2}{dt^2} \bs{x}) \cdot \bs{v}\) により、 \begin{eqnarray} & \ &m (\frac{d^2}{dt^2} \bs{x}) \cdot d \bs{x} \nonumber \\ &=&m (\frac{d^2}{dt^2} \bs{x}) \cdot \bs{v} dt \nonumber \\ &=&\frac{1}{2}m \frac{d}{dt} \bs{v}^2 dt \nonumber \\ &=& d \left(\frac{1}{2}m \bs{v}^2 \right) \end{eqnarray} と変形できるので、これを速度が\(\bs{v}_{1}~\bs{v}_{2}\)の範囲で積分する。 すると、結果は \begin{equation} \frac{1}{2}m\bs{v}_{2}^2 -\frac{1}{2}m\bs{v}_{1}^2=W \end{equation} であり、最後に移行すれば(\ref{enregy})式が求まった。
以上の計算は、物体に働く外力が一つの場合です。外力が複数働いている場合 それらの仕事の総和が運動エネルギーの変化になります。
一つの質点に外力が複数働いているの場合、エネルギーと仕事の間には、以下の関係式が成り立つ。 \begin{equation} \label{enregy2} \frac{1}{2}m\bs{v}_{1}^2+\sum_{i}W_{i}=\frac{1}{2}m\bs{v}_{2}^2 \end{equation} ただし、\(W_{i}\)は\(i\)番目の外力のなす仕事で、\(\sum_{i} W_{i}\)はその総和を表す。
導出は外力が一つの時と同じようにできます。特に、二つの外力を拮抗させた 状態で等速で物体が移動している場合、運動エネルギーは変化しないので \(\frac{1}{2}m\bs{v}_{1}^2=\frac{1}{2}m\bs{v}_{2}^2 \)、つまり \begin{equation} \sum_{i} W_{i}=0 \end{equation} であり、これは力のつり合いにより、物体への仕事が実質\(0\)になっていることを表しています。
仕事(\ref{work})式はベクトルの線積分で定義されている。 線積分は媒介変数表示で計算が可能である。
力と経路が与えられた時の、仕事の計算方法です。仕事はベクトルの線積分なので 計算も線積分のそれに準拠します。 (ベクトルの線積分について詳しくは→こちらを参照してください。) 以下に具体的な方法を示します。
仕事(\ref{work})式の経路\(C\)は、時間\(t\)を用いて\(x=x(t),y=y(t),z=z(t)\) の形で表すことができる。(このように、\(t\)で表された表式を媒介変数表示と呼ぶ。)
このもとで仕事は以下のように媒介変数\(t\)を使って 計算ができる。 \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ &=& \int_{t_{i}}^{t_{f}} \bs{F}(\bs{r}(t)) \cdot \frac{d\bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ \label{paradisplay} &=& \int_{t_{i}}^{t_{f}} \left(F_{x}(\bs{r}(t)) \frac{dx}{dt} + F_{y}(\bs{r}(t))\frac{dy}{dt}+ F_{z}(\bs{r}(t))\frac{dz}{dt} \right) dt \end{eqnarray} ただし、\(t_{i},t_{f}\)は経路の始点と終点に 対応する\(t\)の値であり、\(F_{x}(\bs{r}),F_{y}(\bs{r}),F_{z}(\bs{r})\)はそれぞれ\(\bs{F}(\bs{r})\)の \(x,y,z\)成分。
3次元の場合も同様に媒介変数表示で計算ができる。
具体例については仕事の計算の記事を参照してください。
仕事は以下のように線積分 \begin{equation} W= \int_{C} \bs{F} \cdot d \bs{r} \end{equation} で表されるが、この積分は注目する力\(\bs{F}\)と経路\(C\) を定めれば一意に決まる。
逆に、注目する力と経路さえ同じであれば、 物体の運動が等速であれ等加速度であれ仕事は一意に定まる。
仕事は線積分で定義されますが、この線積分が持つ性質に、パラメータの取り方に依存しない という性質があります。(これについて詳しくは→ベクトルの線積分参照)
ここでのパラメータとは時間\(t\)のことだと思って構いません。 パラメータに依存しないとはつまり、同じ道(経路)を通るならば、その所要時間に仕事は 依らないということです。(ただし、\(\bs{F}\)が同じ場合)
例えば摩擦力のする仕事を考えてみましょう。摩擦力だけでは物体は動けないので、他になんらかの外力 がかかっている状況を考えます。すると、経路が同じであれば、途中等速運動していても等加速度運動していても摩擦力のする 仕事は同じになるということです。