力学において仕事\(W\)とは以下の線積分で 定義される量 \begin{equation} \label{work} W= \int_{C} \bs{F} \cdot d \bs{r} \end{equation} である。ただし、\(C\)は線積分の経路であり、 力を受けた物体が移動した軌跡を表す。
仕事はエネルギーとも結びつく重要な概念ですが、計算にはコツが要ります。
文中の線積分とは、移動した経路の線にそって行われる積分のことです。
この線積分について詳しくは→ベクトルの線積分を参照。
仕事に関する基本事項は仕事の基本事項にまとめてあります。ここでは、特にその 計算について具体例を含めて解説します。
仕事(\ref{work})式はベクトルの線積分で定義されている。 線積分は媒介変数表示で計算が可能である。
力と経路が与えられた時の、仕事の計算方法です。仕事はベクトルの線積分なので 計算も線積分のそれに準拠します。 (ベクトルの線積分について詳しくは→こちらを参照してください。) 以下に具体的な方法を示します。
仕事(\ref{work})式の経路\(C\)は、時間\(t\)を用いて\(x=x(t),y=y(t),z=z(t)\) の形で表すことができる。(このように、\(t\)で表された表式を媒介変数表示と呼ぶ。)
このもとで仕事は以下のように媒介変数\(t\)を使って 計算ができる。 \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ &=& \int_{t_{i}}^{t_{f}} \bs{F}(\bs{r}(t)) \cdot \frac{d\bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ \label{paradisplay} &=& \int_{t_{i}}^{t_{f}} \left(F_{x}(\bs{r}(t)) \frac{dx}{dt} + F_{y}(\bs{r}(t))\frac{dy}{dt}+ F_{z}(\bs{r}(t))\frac{dz}{dt} \right) dt \end{eqnarray} ただし、\(t_{i},t_{f}\)は経路の始点と終点に 対応する\(t\)の値であり、\(F_{x}(\bs{r}),F_{y}(\bs{r}),F_{z}(\bs{r})\)はそれぞれ\(\bs{F}(\bs{r})\)の \(x,y,z\)成分。
3次元の場合も同様に媒介変数表示で計算ができる。
これだけではわからないと思うので、具体例を 挙げます。いずれの例題についても、基本的な方針は以下の通りです。
仕事(\ref{work})式の具体的な計算は以下のようにして実行できる。
(ステップ1)経路\(C\)を媒介変数表示で表す。
(ステップ2)線素ベクトル\(d\bs{r}\)を媒介変数\(t\)で表す。
(ステップ3)(\ref{paradisplay})式で線積分を媒介変数\(t\)の積分へ帰着し、実行する。
経路\(C\)を\(x\)軸に沿った直線で、その長さが\(L\)の時、以下の仕事
\begin{equation}
W_{1}= \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r}
\end{equation}
を計算したい。ただし、\(F\)を定数として
\begin{equation}
\label{force}
\bs{F}=\left
(\begin{array}{c}
F \\
F \\
0
\end{array}
\right)
\end{equation}
とする。
まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。 今回は経路\(C\)は\(x\)軸上の直線なので、\(v\)を適当な定数として \begin{eqnarray} x=vt \quad (0 \leq t \leq \frac{L}{v}) \\ y=0 \quad (0 \leq t \leq \frac{L}{v}) \\ z=0 \quad (0 \leq t \leq \frac{L}{v}) \\ \end{eqnarray} と表せる。(最終的な結果は\(v\)に依存しないので単に\(v=1\)として\(x=t\)と表してもよい。) 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。
続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素ベクトルは \begin{eqnarray} d\bs{r} &=& \frac{d \bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ &=& \left( \begin{array}{c} v dt \\ 0 \\ 0 \end{array} \right) \end{eqnarray} である。あとは、ステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ & \ & = \int_{0}^{\frac{L}{v}} \bs{F}(\bs{r}(t)) \cdot \frac{d\bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ & \ & = \int_{0}^{\frac{L}{v}} F \ v dt \nonumber \\ & \ & = F L \end{eqnarray} となる。以上より、仕事の計算結果 \(W_{1}=FL\) が得られた。
問題その1では経路が単純だったので、 \begin{equation} \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} = \int_{0}^{L} F dx \end{equation} のようにも計算はできますが、一般にはそうはならないので注意が必要です。
仕事をデカルト座標で計算するとき、一般には \begin{equation} \int_{C} \bs{F} \cdot d \bs{r} \neq \int F_{x} dx+\int F_{y} dy + \int F_{z} dz \end{equation} なことに注意。
これを踏まえて次の例題も考えてみましょう。
経路\(C\)を半径\(a\)の半円とする。この時、以下の仕事 \begin{equation} W_{2}= \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \end{equation} を計算したい。ただし、\(k\)を定数として、 \begin{equation} \boldsymbol{F}=\left (\begin{array}{c} -k y \\ k x\\ 0 \end{array} \right) \end{equation} とする。
まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。今回は軌跡が半円なので \(\omega\)を適当な定数として、 \begin{eqnarray} x=a \cos \omega t \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi}{\omega}) \\ y=a \sin \omega t \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi }{\omega }) \\ z=0 \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi }{\omega }) \end{eqnarray} と表せる。(最終的な結果は\(\omega\)に依存しないので単に\(\omega=1\)として \(x=a \cos t,y=a \sin t\)などと表してもよい。) 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。
続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素ベクトルは \begin{eqnarray} d\bs{r} &=& \frac{d \bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ &=& \left( \begin{array}{c} -a\omega \sin \omega t dt\\ a\omega \cos \omega t dt \\ 0 \end{array} \right) \end{eqnarray} である。あとは、ステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ & \ & =\int_{0}^{\frac{\pi}{\omega}} (k a^2 \sin^2 \omega t + k a^2 \cos^2 \omega t) \omega dt \nonumber \\ & \ & =\int_{0}^{\pi} ka^2 d (\omega t) \nonumber \\ & \ & =\pi ka^2 \end{eqnarray} となり以上より積分結果 \(W_{2}=\pi ka^2\) を得る。
保存力の場合、その定義から仕事は軌跡によらない。 ゆえに、軌跡が直線か曲線かにかかわらず、計算が楽になる経路を勝手に選んで 始点から終点までの積分をおこなってもよい。
保存力の場合の仕事の計算は、上の事情から比較的楽に済みます。 保存力について詳しくは保存力の記事を参照してください。 保存力かどうかの見分け方なども載せています。
経路\(C\)を半径\(a\)の半円とする。この時、以下の仕事 \begin{equation} W_{3}= \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \end{equation} を計算したい。ただし、\(k\)を定数として、 \begin{equation} \label{conserveforce} \boldsymbol{F}=\left (\begin{array}{c} k y \\ k x \\ 0 \end{array} \right) \end{equation} とする。
上のギモンで出した、問題その2と似ていますが、\(x\)成分の符号が違っており、 こちらは保存力になっています。(保存力の見分け方はこちらを参照)
今回の場合、経路は半円ですが、保存力なので経路を変えて計算できます。
経路\(C\)を媒介変数表示する前に、力が保存力なので 始点終点はそのままに、経路を計算しやすいものへ変更してもよい。
まず、始点の座標を、\(\bs{x}_{i}=(a,0,0)\) 終点の座標を\(\bs{x}_{f}=(-a,0,0)\)と置く。そして経路\(C\)を 単純に\(\bs{x}_{i}\)と\(\bs{x}_{f}\)を結ぶ\(x\)軸上の直線へ変更し 区別のため、\(C'\)と名前を付ける。
この\(C'\)を媒介変数表示すると
\begin{eqnarray}
x=vt \quad (\frac{a}{v} \geq t \geq -\frac{a}{v}) \\
y=0 \quad (\frac{a}{v} \geq t \geq -\frac{a}{v}) \\
z=0 \quad (\frac{a}{v} \geq t \geq -\frac{a}{v})
\end{eqnarray}
線素ベクトルは
\begin{eqnarray}
d\bs{r} &=& \frac{d \bs{r}}{dt} dt \nonumber \\
&=& \left(
\begin{array}{c}
v dt \\
0 \\
0
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
なので、線積分を実行すると
\begin{eqnarray}
& \ & \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\
& \ & = \int_{\frac{a}{v}}^{-\frac{a}{v}} F_{x}(vt,0,0) vdt \nonumber \\
& \ & = 0
\end{eqnarray}
となる。以上より、仕事の計算結果
\(W_{3}=0\)
が得られた。
もう一つ程度具体例を見ておきましょう。
経路\(C\)を半径\(a\)の円弧の\(\frac{1}{4}\)とする。この時、以下の仕事 \begin{equation} W_{4}= \int_{C} \bs{F}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \end{equation} を計算したい。ただし、\(k,g\)を定数として、 \begin{equation} \label{conserveforce2} \boldsymbol{F}=\left (\begin{array}{c} k y - mg\\ k x\\ 0 \end{array} \right) \end{equation} とする。
問題その3に\(x\)軸方向に働く重力が加わりました。このもとでの 仕事\(W_{4}\)を計算してみましょう。
経路\(C\)を媒介変数表示する前に、力が保存力なので 始点終点はそのままに、経路を計算しやすいものへ変更してもよい。
まず、始点の座標を、\(\bs{x}_{i}=(a,0,0)\) 終点の座標を\(\bs{x}_{f}=(-a,0,0)\)と置く。そして経路\(C\)を \(\bs{x}_{i}\)から原点へ向かう直線と、原点から\(\bs{x}_{f}\)へ向かう直線の和に変更し 前者を\(C'_{1}\)後者を\(C'_{2}\)と名前を付ける。
経路\(C'_{1}\)について、これは\(x\)軸に平行な直線なので、 この経路における仕事を\(W_{4;1}\)と置くと、 \begin{eqnarray} W_{4;1}&=& \int_{\frac{a}{v}}^{0} F_{x}(vt,0,0) v dt \nonumber \\ &=& \int_{a}^{0} -mg dx \nonumber \\ &=& mga \end{eqnarray} を得る。
続いて経路\(C'_{2}\)について、これは\(y\)軸に平行な直線なので、 この経路における仕事を\(W_{4;2}\)と置くと、 \begin{eqnarray} W_{4;2}&=& \int_{0}^{a} F_{y}(0,vt,0) dx \nonumber \\ &=& \int_{0}^{\frac{a}{0}} 0 dx \nonumber \\ &=& 0 \end{eqnarray} である。
以上より、二つの結果を合算して、仕事を \begin{equation} W_{4}=W_{4;1}+W_{4;2}=mga \end{equation} と求めることができた。