\begin{eqnarray} \label{divrot} &\nabla& \cdot (\nabla \times \bs{V}(\bs{r}))=0 \\ \label{rotgrad} &\nabla& \times \nabla f(\boldsymbol{r})=\boldsymbol{0} \\ \label{rotrot} &\nabla& \times (\nabla \times \bs{V}(\bs{r}))=\nabla(\nabla \cdot \bs{V})-\nabla^2 \bs{V} \\ \end{eqnarray}
今回はたくさんある\(\nabla\)(ナブラ)の公式の中から特に頻出な三つについてまとめました。
回転の発散は0である。 \begin{equation} \nabla \cdot (\nabla \times \bs{V}(\bs{r}))=0 \tag{\ref{divrot}} \end{equation}
超頻出な公式です。回転や発散の意味を知っていれば、ある意味自明かもしれません。 (発散、回転について詳しくは、ベクトルの発散、ベクトルの回転を参照。)
ちなみに、回転を\(\mathrm{rot}\)、発散を\(\mathrm{div}\)とかいて \begin{equation} \mathrm{div} \ \mathrm{rot} \bs{V}(\bs{r})=0 \\ \end{equation} と書いたりもします。
真面目に成分で計算する方法と、レビチビタ記号を使う方法の二つで証明します。 (レビチビタ記号について詳しくはこちらから)
(i)成分で計算する方法(レベル1)
真面目に計算すると、 \begin{eqnarray} \nabla \cdot (\nabla \times \bs{V}(\bs{r})) &=&\pdiffop{x} \left(\pdiff{V_{z}}{y}-\pdiff{V_{y}}{z} \right) \nonumber \\ &+&\pdiffop{y} \left(\pdiff{V_{x}}{z}-\pdiff{V_{z}}{x} \right) \nonumber \\ &+&\pdiffop{z} \left(\pdiff{V_{y}}{x}-\pdiff{V_{x}}{y} \right) \nonumber \\ &=&0 \end{eqnarray} より示せた。(偏微分は順序をいれかえてよいことに注意。例えば、 \( \pdiffop{x} \pdiff{V_{z}}{y}=\pdiffop{y} \pdiff{V_{z}}{x} \)である)
(ii)レビチビタ記号を使う方法(レベル2)
レビチビタ記号を使うと回転は \begin{equation} \label{rotation} \left[ \nabla \times \bs{V} \right]_{i}=\varep_{ijk} \partial_{j} V_{k} \end{equation} と書けるので、これを代入すると \begin{eqnarray} \nabla \cdot (\nabla \times \bs{V}(\bs{r})) &=& \partial_{i}\varep_{ijk} \partial_{j} V_{k} &=&0 \end{eqnarray} のように0になる。(最後の行は 反対称な\(\varep_{ijk}\)と対称な\(\partial_{i}\partial_{j}\)の積なので0になる。)
磁場(\(\bs{B}=\nabla \times \bs{A}\))の発散はベクトルポテンシャルで表すと自明に0 \begin{equation} \nabla \cdot (\nabla \times \bs{A}(\bs{r}))=0 \end{equation}
勾配の回転は0である。 \begin{equation} \nabla \times \nabla f(\boldsymbol{r})=\boldsymbol{0}\tag{\ref{rotgrad}} \end{equation}
こちらも超頻出です。回転の発散と違い、勾配の回転の右辺はただの0ではなく、ゼロベクトル\(\bs{0}\)になっている ので注意です。
ちなみに、勾配を\(\mathrm{grad}\)、回転\(\mathrm{rot}\)とかいて \begin{equation} \mathrm{rot} \ \mathrm{grad}f(\boldsymbol{r})=\boldsymbol{0} \end{equation} と書いたりもします。
真面目に成分で計算する方法と、レビチビタ記号を使う方法の二つで証明します。 (レビチビタ記号について詳しくはこちらから)
(i)成分で計算する方法(レベル1)
ベクトルの等式なので、一気に示そうとせず、成分ごとにわけて計算していきます。
まず\(x\)成分については、
\begin{eqnarray}
[\nabla \times \nabla f(\bs{r})]_{x}
&=&\pdiffop{y} \pdiff{f}{z}-\pdiffop{z} \pdiff{f}{y} \nonumber \\
&=&0
\end{eqnarray}
のように示せる。他の成分についても同様に計算すると、各成分が0になっていることが
確認できる。(答案には他の成分については同様とでも書いておけば通じると思います。)
(ii)レビチビタ記号を使う方法(レベル2)
回転の発散を計算したときと全く同じ計算で示せます。
レビチビタ記号を使うと回転は \begin{equation} \left[ \nabla \times \bs{V} \right]_{i}=\varep_{ijk} \partial_{j} V_{k} \tag{\ref{rotation}} \end{equation} と書けるので、\(\bs{V}=\nabla f\)を代入すると、 \begin{eqnarray} [\nabla \times \nabla f(\bs{r})]_{i} &=& \varep_{ijk} \partial_{j} \partial_{k} f \nonumber \\ &=&0 \end{eqnarray} のように0になる。(最後の行は 反対称な\(\varep_{ijk}\)と対称な\(\partial_{j}\partial_{k}\)の積なので0になる。)
保存力\(\bs{F}(\bs{r})\)をポテンシャル\(U(\bs{r})\)を使って、\(\bs{F}=-\nabla U\) と書くと、保存力の回転は自明に0 \begin{equation} \nabla \times (-\nabla U(\boldsymbol{r}))=\boldsymbol{0} \end{equation} また、同様に静電場\(\bs{E}(\bs{r})\)を静電ポテンシャル\(\phi(\bs{r})\)を使ってかけば 静電場の回転は自明に0 \begin{equation} \nabla \times (-\nabla \phi(\boldsymbol{r}))=\boldsymbol{0} \end{equation}
回転の回転は以下のようになる。 \begin{equation} \nabla \times (\nabla \times \bs{V}(\bs{r}))=\nabla(\nabla \cdot \bs{V})-\nabla^2 \bs{V} \tag{\ref{rotrot}} \end{equation}
この公式は電磁気で波動方程式を導出するときによく使います。ただし、テストの時は大抵問題文中に式が与えられるので、 無理に覚えなくてもいいかもしれません。
真面目に成分で計算する方法と、レビチビタ記号を使う方法の二つで証明します。 (レビチビタ記号について詳しくはこちらから)
(i)成分で計算する方法(レベル1)
式変形の途中で少しトリッキーなことをします。 \begin{eqnarray} & \ &[\nabla \times (\nabla \times \bs{V}(\bs{r})]_{x} \nonumber \\ &=&\pdiffop{y} [\nabla \times \bs{V} ]_{z} -\pdiffop{z} [\nabla \times \bs{V} ]_{y} \nonumber \\ &=&\pdiffop{y} \left[\pdiff{V_{y}}{x}-\pdiff{V_{x}}{y} \right] \nonumber \\ & \ &-\pdiffop{z} \left[\pdiff{V_{x}}{z}-\pdiff{V_{z}}{x} \right] \nonumber \\ &=&(一つ前と同じ二項) \nonumber \\ & \ &+\pdiffop{x} \pdiff{V_{x}}{x}-\pdiffop{x} \pdiff{V_{x}}{x} \nonumber \\ &=&\pdiffop{x} \left(\pdiff{V_{x}}{x}+\pdiff{V_{x}}{x}+\pdiff{V_{x}}{x} \right) \nonumber \\ & \ &- \left(\pdiffdiffop{x}+\pdiffdiffop{y}+\pdiffdiffop{z} \right) V_{x} \nonumber\\ &=&[\nabla(\nabla \cdot \boldsymbol{V})]_{x}-[\nabla^2 \boldsymbol{V}]_{x} \end{eqnarray} (ポイントは\(\pdiffop{x} \pdiff{V_{x}}{x}\)を勝手に足した後、 同じ項を引いて辻褄を合わせるところ)他の成分でも同様にやれば 成り立つことが示せた。
(ii)レビチビタ記号を使う方法(レベル2)
レビチビタ記号を使うと回転は \begin{equation} \left[ \nabla \times \bs{V} \right]_{i}=\varep_{ijk} \partial_{j} V_{k} \tag{\ref{rotation}} \end{equation} と書けるので、 \begin{eqnarray} &[\nabla \times (\nabla \times \bs{V}(\bs{r})]_{i} \nonumber \\ &=\varep_{ijk} \partial_{j} [\nabla \times \bs{V}(\bs{r})]_{k} \nonumber \\ &=\varep_{ijk} \partial_{j} \varep_{klm} \partial_{l} V_{m} \nonumber \\ &=\varep_{ijk} \varep_{klm} \partial_{j} \partial_{l} V_{m} \nonumber \\ &=\varep_{kji} \varep_{klm} \partial_{j} \partial_{l} V_{m} \end{eqnarray} まで変形できる。最後の行への変形ではレビチビタ記号の反交換の性質\(\varep_{ijk}=-\varep_{ikj}=\varepsilon_{kij}\)を使った。
ここでレビチビタ記号で成り立つ公式(導出はこちらから) \begin{equation} \varep_{kij} \varep_{klm}=\delta_{il} \delta_{jm}- \delta_{im} \delta_{jl} \end{equation} より、 \begin{eqnarray} &\ &\varep_{kji} \varep_{klm} \partial_{j} \partial_{l} V_{m} \nonumber \\ &=&(\delta_{il} \delta_{jm}- \delta_{im} \delta_{jl}) \partial_{j} \partial_{l} V_{m} \nonumber \\ &=&\partial_{j} \partial_{i} V_{j} -\partial_{j} \partial_{j} V_{i} \nonumber \\ &=&\partial_{i} \partial_{j} V_{j} -\partial_{j} \partial_{j} V_{i} \nonumber \\ &=&[\nabla(\nabla \cdot \bs{V})]_{i}-[\nabla^2 \bs{V}]_{i} \end{eqnarray} となって示せた。
一応、ベクトル三重積の公式 \begin{equation} \bs{A} \times (\bs{B} \times \bs{C}) =(\bs{A} \cdot \bs{C}) \bs{B}-(\bs{A} \cdot \bs{B}) \bs{C} \end{equation} について、\(\bs{A},\bs{B}\)を\(\nabla\)に置き換えても (\ref{rotrot})式が導出できますが、微分の順序に注意が必要です。
また、この置き換えはいつでも使えるわけではないので気を付けてください。 (置き換えが使えない場面はナブラの公式(基本編その2)を参照。)
ベクトル三重積の公式 \begin{equation} \bs{A} \times (\bs{B} \times \bs{C}) =(\bs{A} \cdot \bs{C}) \bs{B}-(\bs{A} \cdot \bs{B}) \bs{C} \end{equation} について\(\bs{A},\bs{B}\)を\(\nabla\)に置き換え、\(\bs{C}\)を \(\bs{V}\)置き換える。この時、微分(\(\nabla\))が\(\bs{V}\) の前に来るように順番を調整する。 \begin{equation} \bs{A} \times (\bs{B} \times \bs{C}) =\bs{B}(\bs{A} \cdot \bs{C}) -(\bs{A} \cdot \bs{B}) \bs{C} \end{equation}
あとは置き換えを実行すれば、 \begin{equation} \nabla \times (\nabla \times \bs{V}(\bs{r}))=\nabla(\nabla \cdot \bs{V})-\nabla^2 \bs{V} \tag{\ref{rotrot}} \end{equation} が得られる。