ベクトルの基本事項

ベクトルの(直感的な)定義

向きと大きさを持つ量をベクトルと呼ぶ。

大学物理ではベクトルが重要な役割を果たします。普通、大学数学ではより抽象的な定義を採用しますが、 ベクトル解析や、それを使う大学物理では大抵この定義で十分です。ベクトルの基本事項について簡単にまとめました。

具体例(レベル1)

具体例

典型的なベクトルとして、位置ベクトル\(\bs{x}\)や速度ベクトル\(\bs{v}\) があげられる。

\begin{equation} \bs{x}=\left (\begin{array}{c} x \\ y \\ z \end{array} \right) \end{equation} \begin{equation} \bs{v}=\left (\begin{array}{c} v_{x} \\ v_{y} \\ v_{z} \end{array} \right) \end{equation}

ちなみにですが、大学ではベクトルを \(\vec{v}\)ではなく、\(\bs{v}\)で表記します。 また、成分を横ではなく、縦に並べることが一般的です。

最初のうちは、 成分があるものをベクトルと呼ぶという認識で 大体あっています。ただし、相対性理論以降、成分があってもベクトルでない レアケース(擬ベクトルスピノルなど)が出てくるので注意が必要。

四則演算(レベル1)

ベクトルの加法と減法

ベクトルの和や差もまたベクトルである。 そして、足し算・引き算は成分同士の足し算・引き算でそれぞれ定義される。

ベクトルは、普通の数と同じ感覚で足し算と引き算が実行できます。 ここまでは高校数学でも学ぶ内容ですね。

ベクトルの乗法

ベクトルの積は内積、 または外積によって 表される。 また、内積はスカラーであり、外積はベクトルである。

ベクトルは普通の数と同じような積が定義されていません。 代わりに、内積や外積が積として導入されています。
詳しくは→ベクトルの内積/ ベクトルの外積

ベクトルの除法

ベクトルの割り算は定義されていない。例えば \begin{equation} \frac{\bs{A}}{\bs{B}} \end{equation} は計算不能。

残念ながら、ベクトルの割り算は実行できません。 ただし、成分ごとの割り算 \begin{equation} \frac{A_{i}}{B_{j}} \end{equation} はただの数の割り算なので計算できます。これを行列として 書くこともあります。

基底ベクトル(レベル1)

基底ベクトル

座標軸に平行な単位ベクトルを基底ベクトルと呼ぶ。

基底ベクトルを定義すると後述するようにベクトルを成分表示したり、基底表示したりできます。 例えば、デカルト座標の場合、\(x\)軸方向の基底ベクトルを\(\bs{e}_{x}\)、\(y\)軸方向の基底ベクトルを\(\bs{e}_{y}\) のように表したりします。

基底ベクトルはその定義から単位ベクトルの一種なのでノルム(大きさ)は\(1\) \begin{equation} \bs{e}_{x} \cdot \bs{e}_{x}=\bs{e}_{y} \cdot \bs{e}_{y}=1 \end{equation} であることに注意しましょう。また、直交座標の場合は、例えば\(x\)軸と\(y\)軸が 直交しているので、それに平行な基底ベクトルも直交します。即ち \begin{equation} \bs{e}_{x} \cdot \bs{e}_{y}=0 \end{equation} ということです。

また、よく用いられる記法として、3次元の場合、座標軸が3本あるのでこれらを\(x\)軸、\(y\)軸、\(z\)軸 と呼ぶ代わりに\(1\)軸、\(2\)軸、\(3\)軸と名前をつけて、それぞれの軸に対応する基底ベクトルを \(\bs{e}_{1},\bs{e}_{2},\bs{e}_{3}\)のように書いたりもします。

成分表示と基底表示(レベル1)

ベクトルの基底表示

ベクトルは座標軸に平行な単位ベクトルを使って分解して表せる。 例えば、3次元の場合、\(\bs{e}_{i} \ (i=1,2,3)\)を基底ベクトルとして \begin{equation} \label{basisrep} \bs{A}=a_{1} \bs{e}_{1}+a_{2} \bs{e}_{2}+a_{3} \bs{e}_{3} \end{equation} の通り。これを基底表示と呼ぶ。

ベクトルの 基底表示です。 基底ベクトルを省略すると、よく知られる 成分表示になります。

ベクトルの成分表示

(\ref{basisrep})式の基底を省略して成分を並べたもの \begin{equation} \bs{A}=\left (\begin{array}{c} a_{1} \\ a_{2} \\ a_{3} \end{array} \right) \end{equation} を成分表示と呼ぶ。

基底とは、上にもあるように、座標軸方向の大きさが1の ベクトルのことで、デカルト座標の場合、成分表示をすると \begin{equation} \bs{e}_{1}=1 \times \bs{e}_{1}+0 \times \bs{e}_{2}+0 \times \bs{e}_{3} \end{equation} より、 \begin{equation} \label{basis} \bs{e}_{1}=\left (\begin{array}{c} 1 \\ 0 \\ 0 \end{array} \right) \end{equation} のようになります。

また、成分表示には、成分を縦に並べる縦ベクトルと \begin{equation} \bs{A}=\left (\begin{array}{c} a_{1} \\ a_{2} \\ a_{3} \end{array} \right) \end{equation} 横に並べる横ベクトル \begin{equation} \bs{A}^{t}=( a_{1} , a_{2} , a_{3} ) \end{equation} があります。(\(\bs{A}^{t}\)は横と縦を識別する記号。横ベクトルの時に\(t\)をつける) 今はさほど違いを意識しなくて大丈夫です。

座標変換(レベル1)

座標の回転/反転に対する変換

ベクトルの成分は座標変換で変化するが、ベクトルそのもの は変化しない。

ベクトルの持つ重要な性質です。詳しくは→ ベクトル/スカラーの座標変換