以下の形の一階の微分方程式 \begin{equation} \label{1linerdiffeq} \frac{d x}{dt}(t)+P(t)x(t)=Q(t) \end{equation} を一階線形非同次微分方程式と呼ぶ。
前回の同次微分方程式 \begin{equation} \label{1linerhomodiffeq} \frac{d x}{dt}(t)+P(t)x(t)=0 \end{equation} の右辺に\(Q(t)\)がくっつきました。非同次というのは簡単には 、右辺が\(0\)ではなくて、\(Q(t)\)のように\(t\)の関数になっているものを指します。
空気抵抗を考慮した自由落下の運動方程式 \begin{equation} \label{downwardeq} m\frac{d^2 x(t)}{dt^2}=mg - \kappa \frac{dx(t)}{dt} \end{equation} について、\(v(t)=\frac{dx}{dt}\)を使って速度の微分方程式に書き換えると \begin{equation} \label{diffeq} \frac{d v(t)}{dt}=g - h v(t) \end{equation} (ただし\(h=\frac{\kappa}{m}\)になる。これは移項すると \begin{equation} \frac{d v(t)}{dt}+h v(t)=g \end{equation} になることからも分かるように、一階線形非同次微分方程式である。 詳しくは→自由落下その2(空気抵抗がある場合)
金属中を流れる電子の運動は以下の微分方程式で記述される。(ドルーデモデル) \begin{equation} \frac{d \langle \bs{p} \rangle}{dt}=-\frac{\langle \bs{p} \rangle}{\tau}-e\bs{E} \end{equation} (ただし、\(\langle \bs{p} \rangle\)は電子の運動量の期待値、\(\tau\)は緩和時間、\(\bs{E}\)は 電子にかかっている電場。)これは一階線形非同次微分方程式になっている。
関数\(x(t)\)が微分方程式(\ref{1linerdiffeq}) の解であるからといって、その定数倍(\(y(t)=C x(t)\)(ただし\(C \neq 1\))) は(\ref{1linerdiffeq})式 の解にはならない。
今回は非同次であるため、同次の時に成り立っていた性質のうちいくつかは成り立たなく なっています。この事実は、実際に代入すると確認できます。
非同次微分方程式(\ref{1linerdiffeq}) の解\(x_{1}(t)\)と、同次微分方程式(\ref{1linerhomodiffeq})の解\(x_{2}(t)\)について、 その和\(y(t)= x_{1}(t)+ x_{2}(t)\)も (\ref{1linerdiffeq})式 の解。
上の説明では一階微分方程式に議論を限定していますが、これは非同次方程式全般で成り立つ性質で重要なものです。 特に二階以上の微分方程式ではよく使います。 ちなみに、後に述べる一般解(\ref{gsolution})式もまた、解の和の形\(y(t)= x_{1}(t)+ x_{2}(t)\)になっています。
(\ref{1linerdiffeq})式の左辺に\(y(t)= x_{1}(t)+ x_{2}(t)\)を代入する。 \begin{eqnarray} \frac{d y}{dt}(t)+P(t)y(t)&=&\left( \frac{d}{dt}+P(t) \right)x_{1}(t) \nonumber \\ &+&\left( \frac{d}{dt}+P(t) \right)x_{2}(t) \nonumber \\ &=&Q(t) + 0 \nonumber \\ &=& Q(t) \end{eqnarray} 最後から二つの目の行で、\(x_{1}\)と\(x_{2}\)が条件 \((\frac{d}{dt}+P(t))x_{1}=Q(t),(\frac{d}{dt}+P(t))x_{2}=0\)を満たすことを使った。
一階線形非同次微分方程式 \begin{equation} \frac{d x}{dt}(t)+P(t)x(t)=Q(t) \tag{\ref{1linerdiffeq}} \end{equation} の一般解は \begin{equation} \label{gsolution} x(t)=\left( \int dt Q(t) e^{\int P(t) dt}+C \right)e^{-\int P(t) dt} \end{equation} で与えられる。(ただし\(C\)は定数)
(\ref{1linerdiffeq})式の一般解です。証明には定数変化法
という手法を使います。また、前提知識として一階線形微分方程式(同次)
\begin{equation}
\frac{d x}{dt}(t)+P(t)x(t)=0 \tag{\ref{1linerhomodiffeq}}
\end{equation}
の一般解が
\begin{equation}
\label{solution}
x(t)=C e^{-\int P(t)dt}
\end{equation}
であることを使います。
これの証明は→一階線形微分方程式(同次)
まず(\ref{solution})式の定数\(C\)を任意の関数\(f(t)\)に取り換えて \begin{equation} \label{afunc} x(t)=f(t)e^{-\int P(t)dt} \end{equation} なる関数を用意する。すると、\(f(t)\)の任意性より \(x(t)\)もまた任意の関数になる。ゆえにこの\(x(t)\)は一般解を含む。
後はこれを(\ref{1linerdiffeq})式に代入して、 解の形がどうなるか探る。(このように、 定数部分を任意関数の置き換えた形を仮定し、一般解を洗い出す方法を 定数変化法と呼ぶ。)
さて \begin{eqnarray} \left(\frac{d }{dt}+P(t)\right)f(t)e^{-\int P(t)dt}=Q(t) \end{eqnarray} を計算しよう。積の微分公式を使えば、 \begin{eqnarray} &f(t)&\left(\frac{d }{dt}+P(t)\right)e^{-\int P(t)dt} \nonumber \\ +&f'(t)&e^{-\int P(t)dt} =Q(t) \end{eqnarray} となるが、一行目は(\ref{solution})式が(\ref{1linerhomodiffeq})式の解になっている ので\(0\)になり、 \begin{eqnarray} f'(t)e^{-\int P(t)dt} =Q(t) \end{eqnarray} を得る。
これは、両辺に\(e^{\int P(t)dt}\)をかけると \begin{eqnarray} f'(t)=Q(t)e^{\int P(t)dt} \end{eqnarray} となるから、両辺積分すれば \begin{eqnarray} f(t)=\int dt Q(t)e^{\int P(t)dt}+C \end{eqnarray} (ただし、\(C\)は積分定数)を得る。最後にこの\(f(t)\)を 元の(\ref{afunc})式に代入すれば、(\ref{gsolution})式が導出できた。