光量子仮説

光量子仮説

光が振動数に比例したエネルギー \begin{equation} \label{photon} E = h \nu \end{equation} を持つ粒子と仮定する。この仮説を光量子仮説と呼び、この光の粒子を光子と呼ぶ。 \(h\)はプランク定数と呼ばれる定数である。

光量子仮説の概要です。要は、太陽光や蛍光灯などの「光」を、「光子」という粒子の集団で構成されている と仮定するわけです。ちなみに、プランク定数\(h\)とは、 \(h = 6.62607015×10^{−34} [J s]\)という非常に小さな定数です。光子一個のエネルギーはそれだけ小さいということですね。 光量子仮説について簡単にまとめました。

参考: 光量子仮説はアインシュタインが提唱し、この功績でノーベル賞を受賞しました。 ちなみに、光量子の読み方は「こうりょうし」です。

説明可能な現象の例(レベル1)

光量子仮説は、古典論では説明が難しかったいくつもの現象に対して自然な解釈を与えました。 有名な例を挙げていくと以下の通りです。

具体例その1:黒体輻射

鉄などを熱すると、温度上昇に伴って色が次第に橙に変化し、やがて白熱する。このように、 物体の温度を上げると色が変わる現象を、黒体輻射と呼ぶ。

この現象は、振動数\(\nu\)の光のエネルギーが \begin{equation} \label{plank} E_{n} =n h \nu \quad (n = 0,1,2 ...) \end{equation} のように、\(h \nu\)の整数倍と仮定すれば説明がつく。この仮定をプランクの量子仮説と呼ぶ。 この時導入された定数\(h\)は、プランク定数と呼ばれる定数である。

しかし、プランクは、なぜ光のエネルギーが(\ref{plank})式のように\(h \nu\)の整数倍 になるのかを説明できなかった。一方、光量子仮説を用いれば、(\ref{plank})式とは、\(n\)個の 光子の集まりが持つエネルギーと解釈ができ、自然に説明がつく。
詳しくは→黒体輻射

具体例その2:光電効果

金属に光を当てると金属内部から電子が飛び出す。この現象を光電効果と呼ぶ。 光電効果はある一定以上の振動数を持つ光でしか起こらず、また、あたかも粒子が衝突したかのように電子が即座に飛び出す。 この現象は古典論では説明がつかないが、光を粒子と思うと説明がつく。
詳しくは→光電効果

具体例その3:コンプトン散乱

\(X\)線を物質に当てると、より波長の短い\(X\)線が散乱される。そして、散乱前後での波長の変化は散乱される角度に対し \begin{equation} \Delta \lambda = \frac{h}{m_{e} c}(1-\cos \theta) \end{equation} のように変化する。 この現象をコンプトン効果と呼ぶ。コンプトン散乱は、電子と光子の弾性散乱と 考えると、上手く実験結果を説明できる。
詳しくは→コンプトン散乱

エネルギーと運動量(レベル2)

光子のエネルギーと運動量

光子は以下のエネルギーと運動量を持つ粒子として振舞う。 \begin{eqnarray} E &=& h \nu \tag{\ref{photon}} \\ p &=& \frac{h \nu}{c} \end{eqnarray} ただし、\(\nu\)は光の振動数であり、\(h,c\)はそれぞれプランク定数と 光速度。

光子のエネルギーと運動量です。エネルギーは冒頭の仮定通りですが、ここでは運動量の表式 \(p = \frac{h \nu}{c} \)を導出します。

導出

相対論的なエネルギーと運動量の関係式 \begin{eqnarray} E^2=m^2c^4+\bs{p}^2c^2 \end{eqnarray} において、光の質量は\(0\)なので、 \(m=0\)と、(\ref{photon})式より、\(E = h \nu\)を代入。 \begin{eqnarray} |\bs{p}| = \frac{h \nu}{c} \end{eqnarray} より、運動量の表式が得られた。

ちなみに光子は\(v=c,m=0\)なので、相対論的な運動量の公式 \begin{eqnarray} p = \frac{mv}{\sqrt{1- {v^2 \over c^2}}} \end{eqnarray} は不定形になり、使えません。
また、光は相対論的な粒子なので、非相対論的な 公式\(p=mv\)も当然つかえません。

さて、光は波としての性質(干渉など)を併せ持つので、分散関係\(c = \nu \lambda\)が成り立つとしてみましょう。 すると \begin{eqnarray} E &=& h \nu = h\frac{c}{\lambda} \\ p &=& \frac{h \nu}{c} =\frac{h}{\lambda} \end{eqnarray} のように変形ができます。これらは高校物理でもおなじみの公式ですね。

大学物理では、角振動数\(\omega := 2 \pi \nu\)及び波数\(k := \frac{2 \pi}{\lambda}\)と、 ディラック定数\(\hbar := \frac{h}{2 \pi}\)を使って \begin{eqnarray} E &=& \hbar \omega \\ p &=& \hbar k \end{eqnarray} のようによく表記します。これらの公式はこれから頻繫に使います。

より厳密な解釈(レベル2)

より厳密な解釈

光はあたかも波のように振舞うこともあれば、粒子として振舞うこともある。 しかし、波、粒子いずれでもなく、量子として解釈される。

現代的な光子の解釈です。光は時に粒子、時に波のように振舞いますが、そのいずれでもありません。稀に「光は粒子でもあり波でもある」 という記述がありますが、これは間違いです。あくまで「あたかも粒子のように」振舞ったり、「あたかも波のように」振舞っているだけです。

古典物理にはそのような概念を指す言葉はありませんが、量子力学以降、このような振舞いを示すものを 「量子」(または「物質波」)と呼ぶことになります。特に、粒子のような性質に注目する時は量子と、波のような性質に着目 する際は物質波と呼びます。