周期的境界条件の下での自由粒子

自由粒子

ポテンシャルがない\(V(x)=0\)時の、時間によらないシュレディンガー方程式は \begin{equation} \label{freeeom} -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{d^2}{d x^2} \phi (x)=E \phi (x) \end{equation} でかける。この方程式に従う波動関数は\(\phi(x)\)は自由粒子を表す。

ポテンシャルのない系における粒子を自由粒子と呼びます。ポテンシャルが\(0\) の状況は、後述するように、理想気体などで近似的に実現されます。

周期的境界条件とその意味(レベル2)

周期的境界条件

波動関数\(\phi(x)\)に対し、以下のような境界条件 \begin{equation} \label{periodic} \phi(x+L) = \phi(x) \end{equation} を考える。この形の境界条件を周期的境界条件と呼ぶ。

シュレディンガー方程式(\ref{freeeom})式は、\(x\)に関する微分方程式なので、 境界条件が必要です。特に、(\ref{periodic})式のように、波動関数に対して周期的に 同じ値をとることを要求する境界条件を周期的境界条件と呼びます。

(参考):\(t\)に関する微分方程式(運動方程式など)について、初期条件が必要だったように、 \(x\)に関する微分方程式(マクスウェル方程式、シュレディンガー方程式など)には境界条件が必要です。
周期的境界条件の意味

均等に散逸した多数の粒子からなる気体(理想気体)を考える。 均等に散逸しているため、特別な場所はない。ゆえに、ある適当な長さ\(L\)毎に空間を区切れば、 ある区画と隣の区画は同じ状態になっているはずである。つまり、 \begin{equation} \phi(x+L) = \phi(x) \tag{\ref{periodic}} \end{equation} が成り立つ。さらに、上手く\(L\)を選べば、区画の中に、常に粒子が一個存在する 状況が成り立つ。これはすなわち、規格化条件が \begin{equation} \label{normalisation} \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} |\phi(x)|^2 = 1 \end{equation} で表せるということである。

周期的境界条件の一つの解釈です。今は自由粒子を念頭においているため、 例としてポテンシャルに束縛されない理想気体を挙げましたが、この周期的境界条件は、結晶中の電子などでも(結晶中は周期的に原子が並んでいるので) 適用されます。

解の導出(レベル2)

周期的境界条件の下での自由粒子の解

シュレディンガー方程式(\ref{freeeom})式の一般解は、\(k=\sqrt{2mE}/\hbar\)と置くと、 \begin{equation} \label{generalsol} \phi(x) = A e^{ikx} + Be^{-ikx} \end{equation} と書ける。もし、\(k\)が以下の ように量子化されていれば、周期的境界条件(\ref{periodic})式を満たす。 \begin{eqnarray} \label{disk} k_{n} &=& \frac{2 \pi n}{L} \hspace{10pt} ( n =0, \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \end{eqnarray}

さらに、(\ref{generalsol})式が \begin{equation} \label{normalcondition} \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} (|A|^2+|B|^2) = 1 \end{equation} である時、、規格化条件(\ref{normalisation})式も満たす。 即ち、周期的境界条件の下での自由粒子を表す。

特に、\(A\)または\(B\)が\(0\)の場合の解は重要。 \begin{equation} \label{sol} \phi_{k_{n}}(x)=\frac{1}{\sqrt{L}} e^{i k_{n} x} \hspace{10pt} ( n =0, \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \end{equation}

周期的境界条件下のシュレディンガー方程式の解です。今回は少々特殊で、周期境界条件と規格化条件だけでは 解は一意に決まりません。そこで通常、最後に\(A\)または\(B\)が\(0\)という条件を手で加えて、進行波の解を得ます。

導出

自由粒子のシュレディンガー方程式 \begin{equation} -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{d^2}{d x^2} \phi (x)=E \phi (x) \tag{\ref{freeeom}} \end{equation} の一般解は \begin{equation} \phi(x) = A e^{ikx} + Be^{-ikx} \tag{\ref{generalsol}} \end{equation} とかける。ただし、\(A,B\) は定数で、\(k = \frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}\)と置いた。

上の一般解を境界条件の(\ref{periodic})式、\(\phi(x+L) = \phi(x)\)に代入。 \begin{equation} A e^{ikx}e^{ikL} + Be^{-ikx}e^{-ikL} = A e^{ikx} + Be^{-ikx} \end{equation} これを整理したもの \begin{equation} A (e^{ikL}-1) e^{ikx} + B(e^{-ikL}-1)e^{-ikx} =0 \end{equation} を眺めると、この等式が成り立つには、自明な\(A=B=0\)の場合を除き、\(e^{ikL}=1\)、 つまり \begin{equation} k = \frac{2 \pi n}{L} \hspace{10pt} ( n = 0, \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{disk}} \end{equation} の場合がある。以下、右辺の\(n\)依存性を踏まえて\(k=k_{n}\)と表記する。 無限に深い井戸型ポテンシャルの場合とは異なり、\(n=0\)は自明解にはならないので注意。

以下、\(n=0\)と\(n \neq 0\)で状況が異なるため、それぞれで場合わけする必要がある。

(i)\(n=0\)の場合

解はただの定数 \begin{equation} \phi(x) = A + B \end{equation} になるが、定数部分はまとめて\(A\)と表記してよい。 \begin{equation} \phi(x) = A \end{equation} 最後に規格化条件(\ref{normalisation})式を課すと、 \begin{equation} A = \frac{1}{\sqrt{L}} \end{equation} を得る。ここに、\(A\)を正の実数でとった。 (なぜ勝手に正の実数でとってよいのかはこの記事参照。)

(i)\(n \neq 0\)の場合

解は以下のように\(e^{ik_{n}x}\)と\(e^{-ik_{n}x}\)の重ね合わせになる。 \begin{equation} \label{twowave} \phi_{n}(x) = A e^{ik_{n}x} + B e^{-ik_{n}x} \hspace{10pt} ( n = \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \end{equation} ここに、\(A e^{ik_{n}x}\)が(位相の)進行方向が正の波、\(B e^{-ik_{n}x}\)が(位相の)進行方向が負の波 に対応している。

参考:最終的な結果は変わらないが、\(A,B\)が\(n\)に依存するかもしれないため、\(A_{n},B_{n}\)と置いたほうが よい。

最後に(\ref{twowave})式に規格化条件(\ref{normalisation})式を課して物理的な解を得よう。 \begin{eqnarray} \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} |\phi_{n}(x)|^2 = \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} |A|^2+|B|^2 \end{eqnarray} より、 \begin{equation} \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} (|A|^2+|B|^2) = 1 \tag{\ref{normalcondition}} \end{equation} を満たせば、(\ref{twowave})式は規格化条件を満たす。

以上、\(n=0\)、\(n=\neq 0\)の両方を合わせて \begin{equation} \phi_{n}(x) = A e^{ik_{n}x} + B e^{-ik_{n}x} \hspace{10pt} ( n = 0 \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{twowave}} \end{equation} を得る。ここに、 \begin{eqnarray} &&k_{n} = \frac{2 \pi n}{L} \hspace{10pt} ( n =0, \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{disk}} \\ &&\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} (|A|^2+|B|^2) = 1 \tag{\ref{normalcondition}} \end{eqnarray} である。

既に述べたように、今回の問題は周期的境界条件と、規格化条件によって\(A,B,k\)のうち、 二つを決定できますが、残りの一つが決まらず不定性があります。そこで、通常\(B=0\)または \(A=0\)と置いて \begin{equation} \phi_{k_{n}}(x)=\frac{1}{\sqrt{L}} e^{i k_{n} x} \hspace{10pt} ( n =0, \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{sol}} \end{equation} を得ます。この\(\phi_{k_{n}}(x)\) にはいくつか特別な特徴があります。

周期的境界条件の下での自由粒子

周期的境界条件の下での解 \begin{equation} \phi_{n}(x) = A e^{ik_{n}x} + B e^{-ik_{n}x} \hspace{10pt} ( n = 0 \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{twowave}} \end{equation} において、\(B=0\)(または、\(A=0\))と取った解 \begin{equation} \phi_{k_{n}}(x)=\frac{1}{\sqrt{L}} e^{i k_{n} x} \hspace{10pt} ( n =0, \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{sol}} \end{equation} は進行方向が一意に決まった波を表す。また、\(\phi_{n}(x)\)は以下のように\(\phi_{k_{n}}(x)\) の重ね合わせ(線形結合)で表せる。 \begin{equation} \phi_{n}(x) = \frac{1}{\sqrt{2L}} \left(\phi_{k_{n}}(x) + \phi_{k_{-n}}(x) \right) \hspace{10pt} ( n = 0 \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{twowave}} \end{equation}

上の導出の中でも指摘したように、\(\phi_{k_{n}}(x)\)について\(n>0\)の時は進行方向が正、\(n<0\) の時は進行方向が負、\(n=0\)の時は静止した波を表します。また、\(\phi_{n}(x)\)は結局\(\phi_{k_{n}}(x)\) の重ね合わせで表現できるため、\(\phi_{k_{n}}(x)\)がより基本的な解と見ることができます。故に、 自由粒子の解といえば、もっぱら\(\phi_{k_{n}}(x)=\frac{1}{\sqrt{L}} e^{i k_{n} x}\) を指すことが多いです。

補足

上の導出で\(k\)の条件式 \begin{equation} k = \frac{2 \pi n}{L} \hspace{10pt} ( n = 0, \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{disk}} \end{equation} を求めましたが、ここではもう少し丁寧にこの関係式を導いてみます。

便利のために、(\ref{periodic})式を直接使うのではなく、(\ref{periodic})式に\(x=0\) を代入した \begin{equation} \label{periodic1} \phi(L) = \phi(0) \end{equation} および、(\ref{periodic})式の両辺を\(x\)で微分してから\(x=0\)を代入した \begin{equation} \label{periodic2} \phi'(L) = \phi'(0) \end{equation} の二つを用いる。これらは(\ref{periodic})式を満たすための必要条件であるので、後で十分性を確かめる必要はある。 二つの条件を(\ref{generalsol})式に適用。 \begin{eqnarray} \begin{cases} A e^{ikL} + Be^{-ikL} = A + B \\ i k( A e^{ikL} - Be^{-ikL} )= i k(A - B) \end{cases} \end{eqnarray}

あとは、この二つの式を使って\(k\)を求めればよい。 以下、\(k=0\)と\(k \neq 0\)で状況が異なるため、それぞれで場合わけする必要がある。

(i)\(k=0\)の場合

連立した条件式は\(k=0\)を代入すると \begin{eqnarray} \begin{cases} A + B= A + B \\ 0=0 \end{cases} \end{eqnarray} より、自明に満たされる。よって\(k=0\)は条件を満たす。

(i)\(k \neq 0\)の場合

二つ目の条件式について、\(k\)で両辺を割ると \begin{eqnarray} \begin{cases} (e^{ikL}-1)A + (e^{-ikL}-1)B = 0 \\ (e^{ikL}-1)A -(e^{-ikL}-1)B = 0 \end{cases} \end{eqnarray} と変形できるが、これを行列で表すと \begin{equation} \begin{pmatrix} e^{ikL}-1 & e^{-ikL}-1 \\ e^{ikL}-1& -(e^{ikL}-1) \end{pmatrix} \left (\begin{array}{c} A \\ B \end{array} \right) = \left (\begin{array}{c} 0 \\ 0 \end{array} \right) \end{equation} となるが、この連立方程式が\(A=B=0\)という自明な解以外の解を持つ条件は、 \begin{equation} \det \begin{pmatrix} e^{ikL}-1 & e^{-ikL}-1 \\ e^{ikL}-1 & -(e^{ikL}-1) \end{pmatrix} =0 \end{equation} であって、これはつまり \begin{equation} e^{ikL} = 1 \end{equation} を意味する。この条件は\(k\)が \begin{equation} k = \frac{2 \pi n}{L} \hspace{10pt} ( n = \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \end{equation} に限られるということである。

以上より、 \begin{equation} k = \frac{2 \pi n}{L} \hspace{10pt} ( n = 0 \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \tag{\ref{disk}} \end{equation} であれば、連立された条件式を満たすことが分かった。先に述べた十分性についても、 (\ref{disk})式のもとで\(\phi(x)\)が \begin{equation} \phi(x+L) = \phi(x) \tag{\ref{periodic}} \end{equation} を満たすことが簡単にわかる。

運動量の量子化(レベル2)

導出のセクションでは数学的に解を導きましたが、解の物理的意味を考察してみると、量子力学特有の 性質がいくつか見えてきます。特に重要なのは、以下に述べる運動量の量子化です。

運動量の量子化

周期的境界条件のもとでの解(\ref{sol})式は番号\(n\)でラベルされ、\(n\)に対応した運動量 \begin{eqnarray} \label{disp} p_{n} = \hbar k_{n} = \hbar \frac{2 \pi n}{L} \hspace{10pt} ( n = 0 \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,,, ) \end{eqnarray} を持つ。これは、運動量が連続ではなく、飛び飛びの不連続な値しか許されていないことを 表し、運動量の量子化と呼ばれる。

前回、無限に深い井戸型ポテンシャルの記事において、シュレディンガー方程式を 解いた結果、波動関数のエネルギーが量子化されることを見ました。エネルギーと運動量は \begin{eqnarray} E = \frac{p^2}{2m} \end{eqnarray} で結びついているため、エネルギーが量子化されているということは、運動量も実は量子化されていたわけですが、 (ややこしくなるので)前回は詳しく言及しませんでした。

古典論では運動量は連続的に値を変化させることができますが、量子論ではそうであるとは限りません。 (\ref{disp})式のように、周期\(\frac{2 \pi }{L}\)ごとの値しかとることができないようになっています。 位置に課された周期性(\ref{periodic})式によって運動量も周期性を帯びているわけです。この性質は今後、様々な物理ででてきます

もう一つ注目すべきこととして、今回は運動量が\(0\)の状態(\(n=0\))が許容されていることがあげられます。 前回とは異なり、今回は基底状態に対応するエネルギーは\(0\)です。