電流密度

電流密度

単位面積単位時間あたりに通過した正味の正電荷の量を電流密度と呼ぶ。
つまり、電流\(I\)に対し電流密度\(\bs{j}(\bs{r},t)\)は \begin{equation} \label{currentdens} I=\int_{S} \bs{j}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS \end{equation} である。ただし、\(S\)はある3次元領域(例えば導線)の断面

電流密度は微分形のマクスウェル方程式に出てくる概念です。 物理では「単位体積(面積)あたりの××」のことを「××密度」とよくいいます。 また、電流が単位時間あたりに通過する電荷だったので、電流密度は単位面積あたりの 正味の電流とも言いかえられます。

また、電流密度はベクトル量ですが、電流はスカラー量です。 これは電流が内積で表記されていることからも明らかだと思います。

単位は\(\mathrm{SI}\)単位系で[\(\mathrm{A/m^2 }\)](アンペア毎平方メートル)、 及び\(\mathrm{cgs}\)単位系で[\(\mathrm{A/cm^3}\)] (アンペア毎平方センチメートル)です。これは(\ref{currentdens})式の両辺の単位を 比べると明らかですね。

電流密度について簡単にまとめました。

具体例(レベル1)

具体例

アンペールの法則について \begin{equation} \oint_{C} \bs{B}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} = \mu_{0} I \end{equation} の右辺を電流密度で書くと \begin{equation} \oint_{C} \bs{B}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} = \mu_{0} \int_{S}\bs{j}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS \end{equation} となる。

微視的な表式(レベル1)

電流密度

電流密度について、ミクロな視点で考えると以下の式が成り立つ。 \begin{eqnarray} \label{micro} \bs{j}(\bs{r},t)=e n_{e}(\bs{r},t) \ \bs{v}_{d}(\bs{r},t) \end{eqnarray} ここに、\(e < 0\)は電子の電荷、\(n_{e}\)は電子の数密度、\(\bs{v}_{d}\)は 電子の平均的な速度である。

電流密度と聞いても最初はイメージがしにくいですが、 ミクロな視点で考えると意味がつかみやすいかもしれません。 電荷密度は向きを持った量であり、それは電子の速度ベクトルに平行です。 (「平均の速度」の意味について詳しくは→ドリフト速度)

また、電荷密度の定義より\(\rho(\bs{r},t)=e n_{e}(\bs{r},t)\)なので(\ref{micro})式は \begin{eqnarray} \label{currentandcharge} \bs{j}(\bs{r},t)= \rho(\bs{r},t)\bs{v}(\bs{r},t) \end{eqnarray} とも書き換えられます。

さて、ここでは電流について \begin{equation} \label{micro2} I=\int_{S} e n_{e}(\bs{r},t) \ \bs{v}_{d}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS \end{equation} が成り立つことをまず示し、(\ref{currentdens})式と比べることで (\ref{micro})式を導出します。

導出

電流とは単位時間あたりにある領域(例えば導線)の断面\(S\)を通過する電荷 の量なので、この定義を頼りに(\ref{micro2})式の導出を目指す。

電子の平均的な速度を\(\bs{v}_{d}\)と置く。(「平均の速度」の意味について詳しくは→ドリフト速度)
時刻\(t\)から\(t+\delta t\)の間に断面\(S\)を通過できるのは、 時刻\(t\)において、およそ\(|\bs{v}_{d}| \delta t\)だけ断面\(S\)より前に位置していた電子までである。 よって、\(\delta t\)の間に通過できる電子はおおよそ領域\(V=|\bs{v}_{d}| \delta t S\)の中に存在し、 これと電子の数密度\(n_{e}\)と掛けることで、断面\(S\)を通過できる電子の総数が \begin{equation} N_{e} \simeq n_{e}(\bs{r},t)|\bs{v}_{d}(\bs{r},t)| S \delta t \end{equation} のように書けると分かる。ちなみに、この表式が真に正しいのは\(S\)が平面かつ、\(\bs{v}_{d}\)と 垂直な場合のみである。一般にはそうであるとも限らないので \begin{equation} \Delta N_{e} = n_{e}(\bs{r},t) \bs{v}_{d}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \Delta S \delta t \end{equation} の方が正確である。ただし、\(\Delta S\)は断面\(S\)の微小な一部分であり、\(\Delta N_{e}\) は\(\delta t\)の間に\(\Delta S\)を通過する電子の総数である。両辺\(\Delta S\)について和を取ると \begin{equation} N_{e} = \int_{S} n_{e}(\bs{r},t) \bs{v}_{d}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS \delta t \end{equation} を得る。

さて、これに電子一個あたりの電荷\(e\) をかけて\(\delta t\)で割ったものこそが、単位時間あたりに断面\(S\)を通過する電荷、即ち電流である。 以上より、 \begin{equation} I=\int_{S} e n_{e}(\bs{r},t) \ \bs{v}_{d}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS \tag{\ref{micro2}} \end{equation} であって、(\ref{currentdens})式と比べることで \begin{eqnarray} \bs{j}(\bs{r},t)=e n_{e}(\bs{r},t) \ \bs{v}_{d}(\bs{r},t) \tag{\ref{micro}} \end{eqnarray} が導出できた。

保存則(レベル1)

定常電流の保存則

定常電流密度\(\bs{j}(\bs{r})\)について以下が成り立つ。 \begin{eqnarray} \label{currentconservation} \nabla \cdot \bs{j}(\bs{r})=0 \end{eqnarray} これを微分型(微分形)の定常電流の保存則と呼ぶ。 また、同様に以下も成り立つ。 \begin{eqnarray} \label{intcurrentconservation} \int_{S} \bs{j}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS=0 \end{eqnarray} (ただし、\(S\)は3次元領域の表面全体) これを積分型(積分形)の定常電流の保存則と呼ぶ。

定常電流(時間で変化しない電流)について、上のような保存則が成り立ちます。 これについて詳しくは定常電流の保存則の記事を参照してください。

よくある間違いとして、電流と電流密度の関係式 \begin{equation} I=\int_{S} \bs{j}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS \tag{\ref{currentdens}} \end{equation} と積分形の保存則(\ref{intcurrentconservation})式を混同してしまうことがありますが 両者の積分範囲\(S\)には(同じ記号を使っていますが)以下のような違いがあります。

注意

(\ref{currentdens})式の積分領域は ある3次元領域の断面(開曲面)である。 一方(\ref{intcurrentconservation})式の積分範囲は 3次元領域の表面全体(閉曲面)である。

要は縁のある断面か、全体を覆う面全体かの違いです。紛らわしいですが重要な差異なので 気を付けましょう。

また、時間で変化する電流密度については電荷保存則が成り立ちます。

電荷保存則

電荷密度\(\rho(\bs{r})\)電流密度\(\bs{j}(\bs{r})\)について以下が成り立つ。 \begin{eqnarray} \pdiff{\rho}{t}(\bs{r},t)+\nabla \cdot \bs{j}(\bs{r},t)=0 \end{eqnarray} これを電荷保存則と呼ぶ。

これについて詳しくは電荷保存則の記事を参照してください。

電荷密度との関係(レベル2)

電荷密度の関係

電流密度\(\bs{j}(\bs{r})\)は電荷密度\(\rho(\bs{r})\)を用いて \begin{eqnarray} \bs{j}(\bs{r},t)=\rho(\bs{r},t) \bs{v}(\bs{r},t) \tag{\ref{currentandcharge}} \end{eqnarray} のように書ける。 ただし、電流(密度)は電荷(密度)を含まない。 (電流中の電荷は0)

上のギモンで述べたように、電流密度と電荷密度の間には(\ref{currentandcharge}) 式のような関係が成り立ちます。つまり、電流(密度)とは電荷(密度)の流れだということです。

しかしながら、一方で電流(密度)と電荷(密度)は全くの別物で区別されます。 実際、電流(密度)には電荷(密度)は含まれていません。(電流中に含まれる電荷は0ということ) これは以下のようにして確かめられます。

確認

ここでは定常電流について、確かに定常電流に含まれる電荷密度が\(0\)であることを示します。
まず、オームの法則 \begin{equation} \bs{j}(\bs{r})=\sigma \bs{E}(\bs{r}) \end{equation} の両辺の発散を取ります。左辺は定常電流の保存則 \begin{eqnarray} \nabla \cdot \bs{j}(\bs{r})=0 \tag{\ref{currentconservation}} \end{eqnarray} より\(0\)になります。以上より \begin{eqnarray} \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r})=0 \end{eqnarray} が得られますが、ガウスの法則 \begin{eqnarray} \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r})={\rho(\bs{r}) \over \varep_{0}} \end{eqnarray} と見比べて、\(\rho(\bs{r})=0\)、つまり電流密度に含まれる電荷密度は\(0\)という 結果が得られます。

電流が電荷の流れにも拘わらず、電流に電荷が含まれていないというのは直感的に おかしい気がしますが、最初に述べたように電流密度と電荷密度が厳密に区別されているため このような結果が得られます。

つまり、(系が時間変化しない場合は特に) 電流密度があっても電場は生まれませんし、電荷密度は磁場を生まないということです。

参考:系が時間変化する場合はもう少しややこしい。また、相対論的にいうと 電場と磁場、電荷密度と電流密度が混ざり合うのでさらにややこしい。