静磁場\(\bs{B}(\bs{r})\)には以下の関係式が成り立つ。 \begin{equation} \label{diffform} \nabla \cdot \bs{B}(\bs{r})=0 \end{equation} これは磁気単極子が存在しないことを表す。
他のマクスウェル方程式の式と違い、この式だけ固有の名前がついていません。 そのため、ここではこの式を磁気単極子が存在しないことと呼ぶことにします。 また式中の\(\nabla \cdot \bs{B}(\bs{r})\)は\(\bs{B}(\bs{r})\)の発散です。 (発散について未習の人はベクトルの発散からどうぞ) この式について簡単にまとめました。
(\ref{diffform})式の別表現として以下の積分形 \begin{equation} \label{intform} \int_{S} \bs{B}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS =0 \end{equation} もある。
冒頭で紹介したのは微分形でしたが、上記のような積分形の表記もあります。 見た目は違いますが、両者は同じ意味です。(導出など詳しくは下のギモン参照。)
(\ref{intform})式は磁気単極子が存在しないことことを表す。
磁気単極子(モノポール)というのはN極だけ、またはS極だけしかない磁石のことです。 電荷は+と-の片方だけで存在できることが知られたいますが、磁石にはそれが見つかっていません。 この事実を数式で表現することを考えてみましょう。 ここではガウスの法則から類推して(\ref{intform})式と(\ref{diffform})式を導入します。 (ガウスの法則についてはこちらの記事参照。)
もし、電荷が+と-のペアでしか存在できないとすると、 ガウスの法則は \begin{equation} \int_{S} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS =\frac{Q-Q}{\varep_{0}}=0 \end{equation} のようになるので左辺の面積分が\(0\)になる。 この結果を磁場に応用すると \begin{equation} \int_{S} \bs{B}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS =0 \tag{\ref{intform}} \end{equation} が得られる。さらにこの式の左辺にガウスの定理を使うと (ガウスの定理についてはこちらからどうぞ) \begin{equation} \int_{S} \bs{B}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS=\int_{V} \nabla \cdot \bs{B}(\bs{r}) \mathrm dV \end{equation} と変形できるので、(\ref{intform})式は \begin{equation} \int_{V} \nabla \cdot \bs{B}(\bs{r}) \mathrm dV =0 \end{equation} のようになり、両辺見比べて \begin{equation} \nabla \cdot \bs{B}(\bs{r})=0 \tag{\ref{diffform}} \end{equation} を得る。
時間に依存する磁場\(\bs{B}(\bs{r},t)\)についても以下の関係式が成り立つ \begin{equation} \nabla \cdot \bs{B}(\bs{r},t)=0 \end{equation}
今までの議論では静磁場といって、時間に依存しない磁場\(\bs{B}(\bs{r})\) について述べてきましたが、以上の議論は一般の、時間に依存する磁場\(\bs{B}(\bs{r},t)\)についても成り立つことが知られています。
今回の場合は時間に依存する磁場でも式の形が変わりませんでしたが、 他のマクスウェル方程式には形が変わるものも存在します。この例外については アンペール・マクスウェルの法則を参照。