ガウスの法則

静電場のガウスの法則(微分形)

静電場\(\bs{E}(\bs{r})\)と電荷密度\(\rho(\bs{r})\)の間には以下の関係式が成り立つ \begin{equation} \label{diffform} \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r})=\frac{\rho(\bs{r})}{\varep_{0}} \end{equation} これを微分型(微分形)のガウスの法則と呼ぶ。 (ただし\(\varep_{0}\)は真空の誘電率)

ガウスの法則は高校物理でも学習しましたが、大学では定式化が少し違っています。 高校物理で学んだガウスの法則は後で出てくる積分型のガウスの法則に近いです。 また式中の\(\nabla \cdot \bs{E}(\bs{r})\)は\(\bs{E}(\bs{r})\)の発散です。 (発散について未習の人はベクトルの発散からどうぞ) ガウスの法則について簡単にまとめました。

積分形(レベル1)

静電場のガウスの法則(積分形)

静電場\(\bs{E}(\bs{r})\)と電荷\(Q\)の間には以下の関係式が成り立つ \begin{equation} \label{intform} \int_{S} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS =\frac{Q}{\varep_{0}} \end{equation} これを積分型(積分形)のガウスの法則と呼ぶ。 (ただし\(\varep_{0}\)は真空の誘電率)

冒頭で紹介したのは微分形でしたが、ガウスの法則には積分形もあります。 見た目は違いますが、両者は同じ意味です。(導出など詳しくは下のギモン参照。)

基本的に計算ではこちらの積分形を使います。微分形の意義や必要性に ついてはこちらの記事を参照。

法則の意味(レベル1)

ガウスの法則の意味

ガウスの法則(\ref{intform})式は、ある空間内にある電荷と その電荷が作る電気力線(電場)の関係式である。

まずは、ガウスの法則の意味について簡単に説明します。 (\ref{intform})式を少し変形してみると \begin{equation} \varep_{0} \int_{S} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS =Q \end{equation} のようになります。すると右辺はそのまま電荷になっていて、 左辺はその電荷が作る電気力線の本数を電荷を取り囲む閉じた面上で足し上げた形になっています。 つまり、ガウスの法則は電荷がどのくらいの電気力線(電場)を作れるのか 表しているわけです。

電荷と電場を結ぶ法則には他にクーロンの法則もありますが、 これとガウスの法則との関係についても見てみましょう。

クーロンの法則との関係

ガウスの法則(\ref{intform})式はクーロンの法則の一般的な形

高校物理でも学んだように、 点電荷の間にはクーロンの法則が成り立ち、これによると電場を \begin{equation} \bs{E}(\bs{r}) =\frac{1}{4 \pi \varep_{0}} \frac{Q}{r^2} \bs{\hat{r}} \end{equation} のように書くことができます。(詳しくは→クーロンの法則参照) この法則が言っていることは、ガウスの法則と同様、点電荷がある場合、その周りには電場が生成されるというシンプルな内容です。

ただし、両者の違いとしてクーロンの法則が基本的に点電荷にしか適用ができない のに対し、ガウスの法則はその制限がないことがあげられます。

なので、コンデンサーなどの面に分布している電荷や、空間上に広がっている電荷には クーロンの法則は役に立ちません。そこで用いられるのが点電荷以外にも使えるガウスの法則であり、この意味で クーロンの法則の一般化になっています。 下のギモンではクーロンの法則から出発してガウスの法則を導入します。

参考:クーロンの法則を空間上に広がっている電荷にも使えるように改良することは可能ですが、 結局その帰結としてガウスの法則が導かれます。

法則の導出(レベル1)

ここでは高校物理の内容(クーロンの法則)から出発してガウスの法則を導きます。まず、 導出が簡単な積分形(\ref{intform})式を先に導いた後、ガウスの定理から 微分形(\ref{diffform})式を導きます。
ガウスの定理について詳しくはこちらから。

導出

原点に点電荷\(Q\)が一個あるとき、クーロンの法則から その電荷が作る電場の大きさは \begin{equation} |\bs{E}(r)| =\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{Q}{r^2} \end{equation} のようになりますが、ここから出発して変形していきます。

まず、この電荷\(Q\)を囲む半径\(a\)の球状の領域を考える。 するとクーロンの法則からこの球の表面における電場は \(|\bs{E}(a)| =\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{Q}{a^2} \) ということになる。これを少し変形して \begin{equation} |\bs{E}(a)|4 \pi a^2 =\frac{Q}{\varepsilon_{0}} \end{equation} と表すことにする。ここで、この左辺について \begin{equation} \int_{半径のaの球面} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS=4 \pi a^2|\bs{E}(\bs{r})| \end{equation} のように面積分で表すことができる。(この積分について詳しくは→面積分) なぜなら、半径\(a\)の球面上の 電場はクーロンの法則から一定なので \begin{eqnarray} & \ &\int_{半径aの球面} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS \nonumber \\ &=& |\bs{E}(a)| \int_{半径aの球面} dS \nonumber \\ &=& 4 \pi a^2|\bs{E}(a)| \end{eqnarray} だからである。以上より、 \begin{eqnarray} & \ &\int_{半径のaの球面} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS \nonumber \\ \label{sphereform} & \ &=\frac{Q}{\varepsilon_{0}} \end{eqnarray} が成り立つ。後は、球だけでなく 点電荷を取り囲む任意の曲面\(S\)について (\ref{intform})式が成り立つことを示せればよい。

そのために、この曲面\(S\)を無数の半径の異なる球面の一部 を切り貼りして近似しよう。 たとえいくら切り貼りしても、電荷\(Q\)を取り囲むように全て足し合わせれば(\ref{sphereform})式 同じ右辺の値になるので \begin{eqnarray} & \ &\sum_{a} \sum_{s(a)} \int_{r=aの球面の断片s(a)} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS \nonumber \\ & \ & =\frac{Q}{\varepsilon _{0}} \end{eqnarray} を得る。最後に、近似の精度を上げるには、より多種の球面の破片をより細かく 用意していけばよい。無限に細かい球の破片を用いることで左辺は(\ref{intform})式 の左辺に一致し、 \begin{equation} \int_{S} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS =\frac{Q}{\varep_{0}} \tag{\ref{intform}} \end{equation} となる。最初に点電荷が原点に一個ある状況を仮定したが、 この(\ref{intform})式は点電荷が原点になくても同様に成り立つ。また、 重ね合わせの原理から、点電荷が複数または、電荷が大きさをもって分布していても (\ref{intform})式は問題なく成り立つ。(これについては電気力線を考えた方がイメージはしやすい。)

以上より、(\ref{intform})式が導出できた。続いて(\ref{intform})式から(\ref{diffform})式 を導く。まず(\ref{intform})式の左辺に対し、ガウスの定理を使えば \begin{equation} \label{Gausstheorem} \int_{S} \bs{E}(\bs{r}) \cdot \bs{n}(\bs{r}) \mathrm dS =\int_{V}\nabla \cdot \bs{E}(\bs{r}) \mathrm dV \end{equation} のように変形できる。 (詳しくは→ガウスの定理)

一方、右辺については電荷密度の定義から \begin{equation} Q=\int_{V} \rho(\bs{r}) \mathrm dV \end{equation} (電荷密度についてはこちらも参照)であって、この二つの式から(\ref{intform})式は \begin{eqnarray} & \ &\int_{V}\nabla \cdot \bs{E}(\bs{r}) \mathrm dV \nonumber \\ &=&\int_{V} \rho(\bs{r}) \mathrm dV \end{eqnarray} となる。後は両辺を比較すれば \begin{equation} \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r})=\frac{\rho(\bs{r})}{\varep_{0}} \tag{\ref{diffform}} \end{equation} を得る。

参考:ここでの「導出」とは数学的な導出ではなく、単にガウスの法則をクーロンの法則から出発して 自然に「導入」しようという試みです。なので、クーロンの法則を使って数学的にガウスの法則が 証明できるわけではありません。(むしろ、論理的にはガウスの法則が先にあって、そこからクーロンの法則が導けるという表現の方が正しい)

時間に依存する場合(レベル1)

ガウスの法則(微分形)

時間に依存する電場\(\bs{E}(\bs{r},t)\)と 時間に依存する電荷密度\(\rho(\bs{r},t)\)の間にも以下の関係式が成り立つ \begin{equation} \nabla \cdot \bs{E}(\bs{r},t)=\frac{\rho(\bs{r},t)}{\varep_{0}} \end{equation}

今までの議論では静電場といって、時間に依存しない電場\(\bs{E}(\bs{r})\) と時間に依存しない電荷密度\(\rho(\bs{r})\)について述べてきましたが、以上の議論 は一般の、時間に依存する電場\(\bs{E}(\bs{r})\)についても成り立つことが知られています。

ガウスの法則の場合は時間に依存する電場でも式の形が変わりませんでしたが、 他のマクスウェル方程式には形が変わるものも存在します。この例外については アンペール・マクスウェルの法則を参照。