静電エネルギー

静電ポテンシャルの記事で、静電ポテンシャルの意義として、静電エネルギー(電荷の位置エネルギー)を 求めるのに便利だという話をした。そこで、今回は実際に静電ポテンシャルを使って静電エネルギーを求めてみる。

もっとも、同じ電荷を持つ二粒子間の静電エネルギーはすでに静電ポテンシャルの記事で \[ U=q \phi \tag{1} \] であり、一粒子あたりに直すと \[ U_{一粒子あたり}=\frac{1}{2} q \phi \tag{2} \] になると紹介しているので、今回はさらに踏み込んで、異なる電荷を持つ二粒子の場合や、もっと多くの粒子の場合の静電エネルギーはどうなるのか考える。

一応結論だけ先に書いておくと、n個の異なる電荷(\(q_{1},q_{2},... ,q_{n}\))の間の静電エネルギーは総合すると、 \[ U=\frac{1}{2}\sum_{i=1}^{n} q_{i}\phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{3} \] となる。式(2)をそれぞれの電荷が違うことを鑑みて足したような式の見た目である。

今回は説明の簡略化のため、クーロンの法則を使うが、使わなくても一応説明できる。 ただ、使わない方は難易度が上がっているので初めての人はこちらの説明の方が納得しやすいと思う。

異なる電荷の間の静電エネルギーはどうやって求めるの?(レベル1)

まず、異なる電荷を持つ二粒子の間のエネルギーから考えよう。そのために、何もない空間に電荷\(q_{1}\)を持った粒子が一つだけある場合をまず考える。

何もない空間に電荷が一つあるだけの時は、その電荷は反発も引かれもしないので、位置エネルギーは0だ。 ここで、その電荷\(q_{1}\)から無限に離れた地点に電荷\(q_{2}\)を一つ置いてみる。すると二つの電荷は反発しあう(または引き合う)はずだ。 この力は静電力だから、電荷\(q_{1}\)のつくる電場\(\boldsymbol{E}_{1}\)と電荷\(q_{2}\)を使って、\(\boldsymbol{F}=q_{2}\boldsymbol{E}_{1}\) と書ける。

さて、その無限遠に置いた電荷\(q_{2}\)を、\(q_{2}\)が受ける力とは逆向きの力を加えることで加速するのを抑えつつ、非常にゆっくりと電荷\(q_{1}\)の 方へ近づけていこう。(ただし、電荷\(q_{1}\)はある位置\(\boldsymbol{r}_{1}\)に固定しておく)すると、力を加えつつ物体は移動しているので、仕事が発生している。 加えている力は静電力と同じ大きさで逆向きだから、加えた仕事は \[ W_{2 \to 1}=-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{2}} q_{2}\boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r}) \cdot d\boldsymbol{r} \tag{4} \] である。(ただし、\(\boldsymbol{r}_{2}\)は電荷\(q_{2}\)の位置とする)エネルギー保存則より、この分だけ位置エネルギーが発生する。

ここは計算が楽になるように、まず\(x\)軸に平行に積分し、つづいて\(y\)軸に平行に、そして最後に\(z\)軸に平行に積分するような経路を選ぼう。 どんな経路かイメージが浮かばない人は、UFOキャッチャーのように、一つの方向づつ動かして、目標の終点へ到達するようなイメージだ。

すると式(3)は、積分範囲については\(\boldsymbol{r}_{2}=(x_{2},y_{2},z_{2})\)として \begin{align} W_{2 \to 1}=&-\int_{\infty}^{x_{2}} q_{2} E_{1x}(x,\infty, \infty) dx \\ &-\int_{\infty}^{y_{2}} q_{2} E_{1y}(x_{2},y, \infty) dy \\ &-\int_{\infty}^{z_{2}} q_{2} E_{1z}(x_{2},y_{2}, z) dz \tag{5} \end{align} となる。ここで\(E_{1x}\)とかは空間内の電場、電荷\(q_{1}\)のつくる電場\(\boldsymbol{E}_{1}\)の各成分だ。さて、ここに静電場ポテンシャルと電場の関係式 \[ \boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r})=-\nabla \phi_{1}(\boldsymbol{r}) \tag{6} \] を代入しよう。これは成分ごとに書くと \[ \left (\begin{array}{c} E_{1x}(x,y,z) \\ E_{1y}(x,y,z) \\ E_{1z}(x,y,z) \end{array} \right) = \left (\begin{array}{c} -\frac{\partial \phi_{1}}{\partial x} (x,y,z)\\ -\frac{\partial \phi_{1}}{\partial y} (x,y,z)\\ -\frac{\partial \phi_{1}}{\partial z} (x,y,z) \end{array} \right) \tag{7} \] なので、 \begin{align} W_{2 \to 1}=&\int_{\infty}^{x_{2}} q_{2} \frac{\partial \phi}{\partial x}(x,\infty, \infty) dx \\ &+\int_{\infty}^{y_{2}} q_{2} \frac{\partial \phi}{\partial y}(x_{2},y, \infty)dy \\ &+\int_{\infty}^{z_{2}} q_{2} \frac{\partial \phi}{\partial z}(x_{2},y_{2}, z) dz \\ &=\int_{\infty}^{x_{2}} q_{2} \frac{d \phi}{d x}(x,\infty, \infty) dx \\ &+\int_{\infty}^{y_{2}} q_{2} \frac{d \phi}{d y}(x_{2},y, \infty)dy \\ &+\int_{\infty}^{z_{2}} q_{2} \frac{d \phi}{d z}(x_{2},y_{2}, z) dz \\ &=q_{2}[\phi_{1}(x_{2},\infty, \infty) -\phi_{1}(\infty,\infty, \infty) \\ &+\phi_{1}(x_{2},y_{2}, \infty) -\phi_{1}(x_{2},\infty, \infty) \\ &+\phi_{1}(x_{2},y_{2}, z_{2}) -\phi_{1}(x_{2},y_{2}, \infty)] \\ &=\phi_{1}(x_{2},y_{2}, z_{2})--\phi_{1}(\infty,\infty, \infty) \tag{8} \end{align} となる。式の途中、偏微分を全微分に取り換えた。これができるのは、微分される以外の変数に\(\infty\)とか具体的な値が 代入されているため、実質一変数関数として扱えるためだ。

参考:偏微分の積分の計算は(今回は全微分にかえられたから問題はなかったが) 注意が必要になる。これについては後で記事をかく予定

最後に式(8)に出てくる項のうち、\(\infty\)が代入されているもの(つまり無限遠での静電ポテンシャル)は0になる。 なぜなら、高校物理でやったように静電力のポテンシャルは無限遠で0になるようにとるからだ。こうして\(W_{2 \to 1}=q_{2}\phi(x_{2},y_{2}, z_{2})\)が得られ、 この仕事が静電エネルギーに等しいので \[ U=q_{2} \phi(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{9} \] となる。

あとは\(\phi_{1}(x_{2},y_{2}, z_{2})\)を求めればいいのだが、これは一個の点電荷\(q_{1}\)に関する静電ポテンシャルである。 よってクーロンの法則より \[ \phi_{1}(\boldsymbol{r})=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{1}}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \tag{10} \] である。以上より、 \[ U_{1\&2}=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{2} q_{1}}{|\boldsymbol{r_{2}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \tag{11} \] になるのだが、これは少し変形できて \begin{align} U_{1\&2}&=\frac{1}{2} [q_{2} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{ q_{1}}{|\boldsymbol{r_{2}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \\ & +q_{1} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{2}}{|\boldsymbol{r_{1}}-\boldsymbol{r_{2}}|^2} ] \\ &=\frac{1}{2}[q_{2} \phi_{1}(\boldsymbol{r}_{2})+q_{1} \phi_{1}(\boldsymbol{r}_{1})] \\ &=\frac{1}{2}\sum_{i=1}^{2} q_{i}\phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{12} \end{align} となって式(3)の形に帰着できた。ただし、無限遠から近づいてくる電荷が受ける電場(今回は\(\boldsymbol{E}_{1}\))に対応する静電ポテンシャルを \(\phi\)とおいた。(つまり、\(\phi=\phi_{1}\)とおいたということ。)

電荷が三つ以上の静電エネルギーはどうやって求めるの?(レベル1)

つづいて電荷が三つ以上の場合の静電エネルギーも考えよう。ただし、前と同じでそれぞれの電荷は異なっていてもよい。

一番簡単そうな三つの場合から手を付けてみる。考え方は上のギモンでやったことの応用をすればいい。先ほどはまず一つの電荷が真空中にあると考えて もう一方の電荷を無限遠から近づけてその仕事から位置エネルギーを割り出したが、今度は二つの電荷がまず真空中にすでに存在するとして 三つ目の電荷を無限遠から近づけていく。

電荷\(q_{1}\)が\(\boldsymbol{r}_{1}\)に、電荷\(q_{2}\)が\(\boldsymbol{r}_{2}\)にすでにあって、そこへ電荷\(q_{3}\)を新たに無限遠から 近づけていくとしよう。この時、電荷\(q_{3}\)にかかる力は \begin{align} \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r})&=q_{3}\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) \\ &=q_{3}(\boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r})+\boldsymbol{E}_{2}(\boldsymbol{r})) \tag{13} \end{align} である。ただし、\(\boldsymbol{E}_{1}\)は電荷\(q_{1}\)がつくる電場で、\(\boldsymbol{E}_{2}\)は電荷\(q_{2}\)がつくる電場である。 二つの電場が重なって、全体の電場\(\boldsymbol{E}\)を構成している。

再び電荷\(q_{3}\)にこれと逆向きで限りなく同じ大きさの力を加えることで加速するのを抑えつつ、徐々に無限遠から近づけていこう。 ここで、残りの二つの電荷は位置を固定しておくものとする。

すると力をかけた物体が動いているので、仕事が発生している。式でかくと \begin{align} W_{3 \to 12}&=-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{3}} q_{3} (\boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r})+\boldsymbol{E}_{2}(\boldsymbol{r})) \cdot d\boldsymbol{r} \\ &=-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{3}} q_{3} \boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r}) \cdot d\boldsymbol{r}\\ &-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{3}} q_{3} \boldsymbol{E}_{2}(\boldsymbol{r})\cdot d\boldsymbol{r} \tag{14} \end{align} となる。これは式(4)と同じ形の積分がふたつ出てきたので同じように計算できる。 \[ W_{3 \to 12}= q_{3}(\phi_{1}(\boldsymbol{r_{3}})+\phi_{2}(\boldsymbol{r_{3}})) \tag{15} \] ここに \[ \phi_{1}(\boldsymbol{r})=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{1}}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \tag{10} \] 及び \[ \phi_{2}(\boldsymbol{r})=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{2}}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r_{2}}|^2} \tag{16} \] を代入して \begin{align} W_{3 \to 12}&=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{3} q_{1}}{|\boldsymbol{r_{3}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \\ &+\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{3} q_{2}}{|\boldsymbol{r_{3}}-\boldsymbol{r_{2}}|^2} \tag{17} \end{align} を得る。

静電エネルギーはこの仕事に加えて、もともと\(q_{1}\)と\(q_{2}\)が持っている位置エネルギー\(U_{1\&2}\)を加えたものになって、 \begin{align} U_{1\&2\&3}&=U_{1\&2}+W_{3 \to 12} \\ &=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{2} q_{1}}{|\boldsymbol{r_{2}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \\ &+\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{3} q_{1}}{|\boldsymbol{r_{3}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \\ &+\frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{3} q_{2}}{|\boldsymbol{r_{3}}-\boldsymbol{r_{2}}|^2} \tag{18} \end{align} になるが、これも少し変形できて、 \begin{align} U_{1\&2\&3}&=\frac{1}{2} [q_{2} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{ q_{1}}{|\boldsymbol{r_{2}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \\ & +q_{1} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{2}}{|\boldsymbol{r_{1}}-\boldsymbol{r_{2}}|^2} \\ &+q_{3} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{ q_{1}}{|\boldsymbol{r_{2}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \\ & +q_{1} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{3}}{|\boldsymbol{r_{1}}-\boldsymbol{r_{2}}|^2} \\ &+q_{2} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{ q_{3}}{|\boldsymbol{r_{2}}-\boldsymbol{r_{1}}|^2} \\ & +q_{3} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{q_{2}}{|\boldsymbol{r_{1}}-\boldsymbol{r_{2}}|^2} ] \\ &=\frac{1}{2} \sum_{i=1}^{3} \sum_{j \neq i} q_{i} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{ q_{j}}{|\boldsymbol{r_{j}}-\boldsymbol{r_{i}}|^2} \\ &=\frac{1}{2} \sum_{i=1}^{3} \phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{19} \end{align} となって式(3)の形にできた。ただし、\(\sum_{j \neq i}\)は1~3の\(j\)のうち、\(i\)と数字が被らないように足すことを表す。 また、電荷\(q_{i}\)が受ける電場に対応する静電ポテンシャルを\(\phi\)とおいた。 (つまり、\(\phi=\sum_{j \neq i} \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{ q_{j}}{|\boldsymbol{r_{j}}-\boldsymbol{r_{i}}|^2})\)とおいたということ。 電荷\(q_{i}\)は自分の作る電場\(\boldsymbol{E}_{i}\)から影響を受けないことに注意。)

同じような議論は三つより多く点電荷がある場合にも応用できる。真面目に示すなら帰納法とか使うべきなんだが、 スペースの都合で省略する。結局、点電荷がn個あるときの静電エネルギーは \[ U=\frac{1}{2}\sum_{i=1}^{n} q_{i}\phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{3} \] と書ける。

クーロンの法則を使わずに説明すると?(レベル2)

先ほどと同じように、異なる電荷を持つ二粒子の間のエネルギーから考えよう。前回と同じ内容が続く部分があるので 必要がない人はその都度飛ばしてもらってよい。

まず、何もない空間に電荷が一つあるだけの時は、その電荷は反発も引かれもしないので、位置エネルギーは0だ。

次に、電荷が一つだけある空間に無限遠からもう一つの電荷を近づけていくことを考える。この時必要な仕事は \[ W_{2 \to 1}=-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{2}} q_{2}\boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r}) \cdot d\boldsymbol{r} \tag{4} \] であった。(ただし、\(\boldsymbol{r}_{2}\)は電荷\(q_{2}\)の位置とする)エネルギー保存則より、この分だけ位置エネルギーが発生する。

ここに静電場ポテンシャルと電場の関係式 \[ \boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r})=-\nabla \phi_{1}(\boldsymbol{r}) \tag{6} \] を代入する。すると、 \begin{align} W_{2 \to 1}=q_{2} [\phi(x_{2},y_{2}, z_{2}) -\phi(\infty,\infty, \infty)] \tag{8} \end{align} となって、高校物理でやったように無限遠で静電ポテンシャルが0になるようにとると、右辺第二項が0になるから \[ U=q_{2} \phi(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{9} \] となる。 ちなみに、これを一粒子あたりの静電エネルギーに直すこともできて、そのためには関係式 \[ q_{1}\phi(\boldsymbol{r}_{1})=q_{2}\phi(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{20} \] を使う。

式(20)がなぜ成り立つのかの説明の前に、左辺の説明をしておくと、これは式(9)の導出の時とは逆に、何もない空間に電荷\(q_{2}\)を置いて、そしてその無限遠から電荷\(q_{1}\)を近づけた場合 に生じる静電エネルギーだ。

静電エネルギーは位置エネルギーの一種であり、それは二つの電荷の大きさと位置関係だけで決まるはずだから、 \(q_{1}\)を固定して\(q_{2}\)を近づけようが、\(q_{2}\)を固定して\(q_{1}\)を近づけようが、最終的な電荷間の距離が等しければ 近づけることによって生じる静電エネルギーは同じというわけである。

式(9)と式(20)より、一粒子あたりの静電エネルギーは、電荷\(q_{1}\)の静電エネルギーを\(U_{1}\)、電荷\(q_{2}\)の静電エネルギーを\(U_{2}\)としたとき、 \[ U_{i}=\frac{1}{2} q_{i} \phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{21} \] である。ただし、\(\mathrm i\)には1か2が入る。

この表式を使って全静電エネルギーを \[ U_{1\&2}=\frac{1}{2} \sum_{i=1}^{2} q_{i} \phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{12} \] とも書ける。



つづいて電荷が三つ以上の場合の静電エネルギーも考えよう。ただし、前と同じでそれぞれの電荷は異なっていてもよい。

今回も一番簡単そうな三つの場合から手を付けてみる。考え方は上のギモンでやったことの応用をすればいい。二つの電荷がまず真空中にすでに存在するとして 三つ目の電荷を無限遠から近づけていく。

電荷\(q_{1}\)が\(\boldsymbol{r}_{1}\)に、電荷\(q_{2}\)が\(\boldsymbol{r}_{2}\)にすでにあって、そこへ電荷\(q_{3}\)を新たに無限遠から 近づけていくとしよう。この時、電荷\(q_{3}\)にかかる力は \begin{align} \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r})&=q_{3}\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) \\ &=q_{3}(\boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r})+\boldsymbol{E}_{2}(\boldsymbol{r})) \tag{13} \end{align} である。ただし、\(\boldsymbol{E}_{1}\)は電荷\(q_{1}\)がつくる電場で、\(\boldsymbol{E}_{2}\)は電荷\(q_{2}\)がつくる電場である。 二つの電場が重なって、全体の電場\(\boldsymbol{E}\)を構成している。

電荷を動かすときに仕事が発生しているが、これを式でかくと \begin{align} W_{3 \to 12}&=-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{3}} q_{3} \boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) \cdot d\boldsymbol{r} \\ &=-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{3}} q_{3} \boldsymbol{E}_{1}(\boldsymbol{r}) \cdot d\boldsymbol{r}\\ &-\int_{\infty}^{\boldsymbol{r}_{3}} q_{3} \boldsymbol{E}_{2}(\boldsymbol{r})\cdot d\boldsymbol{r} \tag{14} \end{align} となる。最後の二項は式(2)と同じ形になっているので同様のやりかたで積分できる。

積分を行うと、 \[ W_{3 \to 12}=q_{3} \phi_{1}(\boldsymbol{r}_{3})+q_{3} \phi_{2}(\boldsymbol{r}_{3}) \tag{15} \] と計算できる。ただし、\(q_{3}\)が\(q_{1}\)から受ける静電力に関する静電ポテンシャルを\(\phi_{1}\)、 \(q_{2}\)から受ける静電力に関する静電ポテンシャルを\(\phi_{2}\)と置いた。 ちなみに式(14)の一行目をそのまま積分すると \[ W_{3 \to 12}=q_{3} \phi(\boldsymbol{r}_{3}) \tag{22} \] となるので式(15)と式(22)を見比べて \[ \phi(\boldsymbol{r}_{3})=\phi_{1}(\boldsymbol{r}_{3})+\phi_{2}(\boldsymbol{r}_{3}) \tag{23} \] を得る。つまり、位置\(\boldsymbol{r}_{3}\)にある電荷\(q_{3}\)は他の場所の電荷、つまり\(q_{2}\)と\(q_{1}\)からの影響でそれぞれ静電エネルギーを得る ということになる。 この関係を他の位置の電荷に当てはめると \[ \phi(\boldsymbol{r}_{1})=\phi_{2}(\boldsymbol{r}_{1})+\phi_{3}(\boldsymbol{r}_{1}) \tag{24} \] \[ \phi(\boldsymbol{r}_{2})=\phi_{3}(\boldsymbol{r}_{2})+\phi_{1}(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{25} \] となる。

蛇足になるが、上のギモンでやった二粒子の時は \[ \phi(\boldsymbol{r}_{1})=\phi_{2}(\boldsymbol{r}_{1}) \tag{26} \] \[ \phi(\boldsymbol{r}_{2})=\phi_{1}(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{27} \] だったのでどの電荷から来る影響なのかとか細かいことは考えなくてよかった。

さて、三つの電荷全体の位置エネルギーは、式(22)の仕事に、もともと電荷\(q_{1}\)と\(q_{2}\)が持っていた位置エネルギーを足せばいい。 式(9)の右辺を\(\phi_{1}\)に書き換えて式(22)に足すと \[ U=q_{3} \phi_{1}(\boldsymbol{r}_{3})+q_{3} \phi_{2}(\boldsymbol{r}_{3})+q_{2} \phi_{1}(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{28} \] となるが、式(20)に式(26)と式(27)に代入して得られる関係式 \[ q_{1}\phi_{2}(\boldsymbol{r}_{1})=q_{2}\phi_{1}(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{29} \] 及び、他の二つの電荷のペアの関係式 \[ q_{3}\phi_{2}(\boldsymbol{r}_{3})=q_{2}\phi_{3}(\boldsymbol{r}_{2}) \tag{30} \] \[ q_{3}\phi_{1}(\boldsymbol{r}_{3})=q_{1}\phi_{3}(\boldsymbol{r}_{1}) \tag{31} \] を使って、式(28)を変形し、式(23)~式(25)を使うと、 \begin{align} U&=\frac{1}{2}[q_{3}\phi_{1}(\boldsymbol{r}_{3})+q_{1}\phi_{3}(\boldsymbol{r}_{1}) \\ &+q_{3}\phi_{2}(\boldsymbol{r}_{3})+q_{2}\phi_{3}(\boldsymbol{r}_{2}) \\ &+q_{1}\phi_{2}(\boldsymbol{r}_{1})+q_{2}\phi_{1}(\boldsymbol{r}_{2})] \\ &=\frac{1}{2}(q_{1}\phi(\boldsymbol{r}_{1})+q_{2}\phi(\boldsymbol{r}_{2})+q_{3}\phi(\boldsymbol{r}_{3})) \\ &=\frac{1}{2}\sum_{i=1}^{3} q_{i}\phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{32} \end{align} となる。ちょっとわかりにくいが、電荷\(q_{3}\)にかけた仕事のうち、半分がそのまま\(q_{3}\)の位置エネルギーになって、 残りの半分を折半して電荷\(q_{1}\)と\(q_{2}\)の位置エネルギーの増加分に充てられている。 あと、最終結果は式(3)の形になっている。

ここまで来れば三つ以上の電荷の場合の静電エネルギーは何となく察しが付くだろう。 n個の電荷があるときの静電エネルギーは \[ U=\frac{1}{2}\sum_{i=1}^{n} q_{i}\phi(\boldsymbol{r}_{i}) \tag{3} \] である。真面目に証明しようとすると帰納法とか使うべきだが、これ以上記事が伸びてもよくないので省略する。

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