固有値と固有状態

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具体例(レベル2)

物理的な意味(レベル2)

固有値と期待値の違い(レベル2)

固有値と固有状態

演算子\(\hat{A}\)と波動関数\(\psi(x,t)\)に対し、以下が成り立つとする。(ただし、\(a\)は\(x,t\)によらない定数) \begin{equation} \hat{A} \psi(x,t) = a \ \psi(x,t) \end{equation} このとき、\(a\)を演算子\(\hat{A}\)の固有値、\(\psi(x,t)\)を演算子\(\hat{A}\)の固有状態(または固有関数)と呼ぶ。
固有値と固有状態は必ずセットで考える。

ある決められた演算を表す記号を演算子と呼びます(前回の記事参照)。 波動関数の中には、特定の演算子\(\hat{A}\)がかかった場合に、定数\(a\)倍されるものが存在し、 これを演算子\(\hat{A}\)の固有状態と呼びます。また、定数\(a\)を固有値と呼びます。ここでは具体例を通して固有状態 と固有値の物理的な意味を解説します。

注意:量子力学では波動関数を物理的状態と解釈するため、固有状態のことを固有関数と呼んだりします。逆も また然りです。また、もう少し先に進むと関数とベクトルが本質的に同じであることが示されるため、 固有状態のことを固有ベクトルと呼んだりします。逆もまた然り。

具体例(レベル2)

具体例を眺めてイメージを養いましょう。

具体例その1(位置の固有状態)

位置演算子\(\hat{x} = x\)について、\(\psi_{a}(x) = \delta(x-a)\)とおくと、 デルタ関数の公式より \begin{equation} \hat{x} \psi_{a}(x) = a \ \psi_{a}(x) \end{equation} が成り立つ。 よって、状態\(\psi_{a}(x) = \delta(x-a)\)は、位置演算子\(\hat{x}\)の、固有値\(a\) に属する固有状態。

同様に、\(\psi_{b}(x) = \delta(x-b)\)について \begin{equation} \hat{x} \psi_{b}(x) = b \ \psi_{b}(x) \end{equation} が成り立つ。 よって、状態\(\psi_{b}(x) = \delta(x-b)\)は、位置演算子\(\hat{x}\)の、固有値\(b\) に属する固有状態。

このように、一つの演算子\(\hat{x} = x\)に対し、一般には複数の異なる 固有状態が存在する。また、固有状態は固有値とペアで存在するため、(一部の例外を除き) 異なる固有状態の数だけ異なる固有値が存在する。

位置演算子の固有状態はデルタ関数\(\psi_{a}(x) = \delta(x-a)\)です。固有値\(a\)は、デルタ関数のピークの 座標値そのものです。普通、「位置演算子の固有状態」は長いので略して「位置の固有状態」と呼びます。

具体例その2(運動量の固有状態)

運動量演算子\(\hat{p} = -i\hbar \pdiff{}{x}\)に対し、\(\psi_{k}(x) = N e^{i kx}\)(\(N,k\)は定数)とおくと、 \begin{equation} \hat{p} \psi_{k}(x) = -i\hbar \pdiff{}{x} N e^{i kx} =\hbar k \ \psi_{k}(x) \end{equation} が成り立つ。
よって、\(\psi_{k}(x) = N e^{i kx}\)は、運動量演算子\(\hat{p}\)の、固有値\(\hbar k\) に属する固有状態。

運動量演算子の固有状態は平面波\(\psi_{k}(x) = N e^{i kx}\)です。固有値\(\hbar k\)は平面波の運動量そのものです。

具体例その3(エネルギーの固有状態)

\(V(x)=0\)の系において、ハミルトニアンは\(\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} \)であるが、 \(\psi_{K}(x) = N e^{i Kx} + M e^{-iKx}\)(\(N,M,K\)は定数)とおくと、 \begin{eqnarray} \hat{H} \psi_{K}(x) &=& -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} \left( e^{i Kx}+ M e^{-iKx} \right) \nonumber \\ &=& \frac{\hbar^2 K^2}{2m} \psi_{K}(x) \end{eqnarray} を満たす。
よって、\(\psi_{K}(x) = N e^{i Kx}+ M e^{-iKx}\)は、ハミルトニアン\(\hat{H}= -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} \)の、固有値\(\frac{\hbar^2 k^2}{2m} \) に属する固有状態。

ハミルトニアン\(\hat{H}= -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} \) の固有状態は、平面波の重ね合わせ\(\psi_{K}(x) = N e^{i Kx} + M e^{-iKx}\)です。固有値\(\frac{\hbar^2 k^2}{2m} \)は状態のエネルギーそのものです。

また、前述の運動量の固有状態\(\psi_{k}(x) = N e^{i kx}\)は、 同時にハミルトニアン\(\hat{H}= -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} \)の固有状態にも なっています。実際、以下が成り立ちます。 \begin{eqnarray} \hat{H} \psi_{k}(x) &=& -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} N e^{i kx} \nonumber \\ &=& \frac{\hbar^2 k^2}{2m} \psi_{k}(x) \end{eqnarray} このように、複数の異なる演算子に対し、同時に固有状態になる状態 がたまに存在し、これを同時固有状態と呼びます。 今回の例で言うと、\(\psi_{k}(x) = N e^{i kx}\)は運動量演算子\(\hat{p}\)とハミルトニアン\(\hat{H}\)の同時固有状態です。

固有状態ではない例

位置演算子\(\hat{x} = x\)を運動量の固有状態\(\psi_{k}(x) = N e^{i kx}\)に作用させると、 \begin{equation} \hat{x} \psi_{k}(x) = N x e^{i kx} \end{equation} のように、定数倍されることなく、寧ろ別の状態に変化する。 実際、右辺の状態を\(\bar{\psi}_{k}(x) = N x e^{i kx}\)と置くと \begin{eqnarray} \hat{p} \bar{\psi}_{k}(x) &=& -i\hbar \pdiff{}{x} N x e^{i kx} &=& (\hbar k+\frac{1}{x}) \ N x e^{i kx} &\neq& \hbar k \bar{\psi}_{k}(x) \end{eqnarray} であって、\(\bar{\psi}_{k}(x)=\hat{x} \psi_{k}(x)\)は運動量の固有状態ではなくなっている(元の状態とは別の状態に変化した)。

固有状態ではない状態とは、演算子が作用されることで関数の形(\(x\)の依存性)が変わってしまう 波動関数のことです。例えば\(\psi_{k}(x) = N e^{i kx}\)は、 \(\hat{x}=x\)がかかることで\(x\)の関数として別物に変化してしまうため、固有状態にはなりません。

物理的な意味(レベル2)

位置の固有状態の物理的意味

位置演算子\(\hat{x}\)に対し、 \begin{equation} \label{xev} \hat{x} \psi(x,t) = a \ \psi(x,t) \end{equation} を満たす固有状態\(\psi(x,t) = \delta(x-a)\)は、位置の測定値がばらつきなく\(a\)に 決まる状態を表す。

位置の固有状態の物理的な意味です。 デルタ関数が下の図のように、ある一点でのみ値を持つ関数であることを思い出すと (下の図では\(\delta(x)\)を図示しています。)、波動関数の物理的解釈から、\(\psi(x,t) = \delta(x-a)\) とは、\(x=a\)でしか粒子が発見されない状態を表していることになります。(波動関数の物理的意味についてはこちらから)

デルタ関数
図1デルタ関数の図示

一般には、量子揺らぎがあるため、量子状態の位置を測定しても、その値は一意に決まりません。 しかし、位置の固有状態は特別(例外)で必ず\(x=a\)で粒子が観測されます。

これを踏まえると、(\ref{xev})式は、状態\( \psi(x,t)\)の位置\(x\)を観測した結果、 \(a\)という観測値を得た、という意味に解釈できます。つまり、位置演算子\(\hat{x}\)は位置の観測を表し、 右辺の固有値\(a\)はその観測値を表すというわけです。

ほかの例として、運動量の固有状態\(\psi(x,t) = N e^{i kx}\)を考えてみましょう。 \(\psi(x,t)\)をフーリエ変換したものを\(\tilde{\psi}(k,t)\)と置くと、 \begin{equation} \tilde{\psi}(k,t) = \delta(\frac{p}{\hbar}- k) \end{equation} であり、波数(運動量)空間上ではデルタ関数になります。これは運動量が\(p=\hbar k\)に一意に決まることを意味します。

このように、一般に演算子\(\hat{A}\)固有状態は、その\(\hat{A}\)に対応する観測可能量(物理量)の 測定値についてばらつきがなく、固有状態に対応する固有値\(a\)に一意に決まる状態を意味するわけです。

固有値と固有状態の物理的意味

観測可能量\(A\)に対応する演算子\(\hat{A}\)に対し、 \begin{equation} \hat{A} \psi(x,t) = a \ \psi(x,t) \end{equation} を満たす固有状態\(\psi(x,t)\)は、\(A\)の測定値がばらつきなく\(a\)に 決まる状態を表す。

固有値と期待値の違い(レベル2)

期待値と固有値の違い

一回毎の測定で得られる値を測定値と呼び、無限に繰り返し測定したときの 測定値の平均を期待値と呼ぶ。一方、何度測定しても同じ測定値しか得られなかった場合、 その測定値を固有値と呼ぶ。

測定値、期待値、固有値の説明です。具体例を見てイメージを掴みましょう。

具体例:位置の固有状態

状態\(\psi(x,t)\)の位置を測定したとき、毎測定ごとに得られる位置の値は測定値です。 無限に位置の測定を繰り返したとき、測定した位置の平均値が期待値です。

仮に、状態\(\phi(x,t)\)の位置の測定を繰り返した結果、常に原点(\(x=0\))に粒子の位置が観測されたとします。 このとき、\(x=0\)を位置の固有値と呼びます。また、\(\phi(x,t)\)を固有値\(x=0\)に対応する固有状態と呼びます。 繰り返しますが、固有値と固有状態は必ずセットで考えます。

参考:本筋とはずれますが、 一般に、測定した状態\(\psi(x,t)\)は、時間発展などの要因ですぐに別の状態\(\tilde{\psi}(x,t)\)に変化してしまうので、 一回測定する度に、新しく状態\(\psi(x,t)\)を用意し直す必要があります。