与えられた経路に沿って行う積分を線積分と呼ぶ。その表式は スカラーかベクトルかで異なり、特に ベクトル関数\(\bs{A}(\bs{r})\)について、以下の積分 \begin{equation} \label{slineint} I_{\bs{A}}= \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} \end{equation} をベクトル関数の線積分と呼ぶ。ここに\(C\)は 積分する経路を表し、\(d \bs{r}\)は線素ベクトルと呼ばれる積分要素で その定義は \begin{eqnarray} \label{diff} d \bs{r}=\left( \begin{array}{c} dx \\ dy \\ dz \end{array} \right) \end{eqnarray} である。(3次元デカルト座標の場合)
線積分はベクトル解析で必須の計算です。特にベクトルの線積分の方は 物理では仕事や電磁気の計算に頻出します。スカラー関数の線積分については こちらからどうぞ。 ベクトルの線積分について簡単にまとめました。
具体例その1:
力学において、仕事はベクトルの線積分
\begin{equation}
W= \int_{C} \bs{F} \cdot d\bs{r}
\end{equation}
で表される。詳しくは→仕事
具体例その2:
電磁気のアンペールの法則の積分型
\begin{equation}
\oint_{C} \bs{B}(\bs{r}) \cdot d \bs{r} = \mu_{0} I
\end{equation}
の左辺は線積分。詳しくは→アンペールの法則
(\(\oint\)は線積分のうち、一周して元の場所へ戻る経路であることを表し、
これを特に周回積分と呼ぶ。)
また、ファラデーの法則の積分型
\begin{eqnarray}
& \ &\oint_{C} \bs{E}(\bs{r},t) \cdot d \bs{r} \nonumber \\
& \ & = - \frac{d}{dt} \int_{S} \bs{B}(\bs{r},t) \cdot \bs{n}(\bs{r}) dS
\end{eqnarray}
の左辺も線積分で表される。詳しくは→ファラデーの電磁誘導の法則
(\ref{slineint})式は区分求積法を使って \begin{equation} \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} = \lim_{\Delta \bs{r}_{i} \to 0}\sum_{i=1}^{\infty} \bs{A}(\bs{r}_{i}) \cdot \Delta \bs{r}_{i} \end{equation} とも表せる。
はじめは経路や線素ベクトルなど聞きなれない言葉が出てきて戸惑うかもしれませんが、 区分求積法に直すと、空間上の各点でベクトル関数と変位ベクトルの内積をとって足し合わせるという形になっていて さほど難しい概念は使っていません。
上の式では抽象的で分かりづらい場合は、力学の仕事の記事に具体的な説明があるので そちらも参照してください。
線積分は媒介変数表示によって計算が可能。
スカラーの線積分にせよ、ベクトルの線積分にせよ、基本線積分は 媒介変数表示しなければ計算ができないので注意が必要です。では、 具体例とともにベクトルの線積分の計算方法を見ていきましょう。
一般に、経路\(C\)の媒介変数表示は、3次元の場合\(x=x(t)\)、\(y=y(t)\)、\(z=z(t)\) の形で与えられる。線素ベクトル\(d\bs{r}\)は \begin{eqnarray} d\bs{r} = \frac{d \bs{r}}{dt} dt \end{eqnarray} となるので、線積分は以下のように媒介変数表示で 計算ができる。 \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ & \ & = \int_{t_{i}}^{t_{f}} \bs{A}(\bs{r}(t)) \cdot \frac{d\bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ \label{paradisplay} & \ & = \int_{t_{i}}^{t_{f}} \left(A_{x}(\bs{r}(t)) \frac{dx}{dt} + A_{y}(\bs{r}(t))\frac{dy}{dt}+A_{z}(\bs{r}(t))\frac{dz}{dt}\right) dt \end{eqnarray} ただし、\(t_{i},t_{f}\)は経路の始点と終点に 対応する\(t\)の値であり、\(A_{x}(\bs{r}),A_{y}(\bs{r}),A_{z}(\bs{r})\)はそれぞれ\(\bs{A}(\bs{r})\)の \(x\)成分、\(y\)成分及び\(z\)成分。
2次元の場合も同様に媒介変数表示で計算ができる。
ベクトルの線積分の計算方法です。媒介変数表示で表したあとは普通の積分なので 以下のように、項ごとに分解して別々に計算が可能です。例えば2次元の場合なら以下の通り。
\begin{eqnarray} \int_{t_{i}}^{t_{f}} \left(A_{x}(\bs{r}(t)) \frac{dx}{dt} + A_{y}(\bs{r}(t))\frac{dy}{dt}\right) dt \nonumber \\ =\int_{t_{i}}^{t_{f}} A_{x}(\bs{r}(t)) \frac{dx}{dt} dt + \int_{t_{i}}^{t_{f}} A_{y}(\bs{r}(t))\frac{dy}{dt} dt \end{eqnarray}これだけでは分かりづらいと思うので、具体例をいくつか挙げます。(一応、仕事の計算の記事にも例題をのせているので 合わせてどうぞ) いずれの例題についても、基本的な方針は以下の通りです。
(ステップ1)経路\(C\)を媒介変数表示で表す。
(ステップ2)線素ベクトル\(d\bs{r}\)を媒介変数\(t\)で表す。
(ステップ3)(\ref{paradisplay})式で線積分を媒介変数\(t\)の積分へ帰着し、実行する。
\(C\)を\(x\)軸に沿った長さ\(l\)の直線とする。 \begin{equation} I_{1}= \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \end{equation} を計算したい。ただし\(k\)を正の定数として \begin{eqnarray} \bs{A}(\bs{r})=\left( \begin{array}{c} -kx \\ 0 \end{array} \right) \end{eqnarray} とする。
二次元かつ経路が単純な場合を例に、計算の流れをつかみましょう。
まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。 今回の場合は\(C\)が\(x\)に沿った直線なので \(v\)を適当な定数として \begin{eqnarray} x=vt \quad (0 \leq t \leq \frac{l}{v}) \\ y=0 \quad (0 \leq t \leq \frac{l}{v}) \end{eqnarray} と表せる。(最終的な結果は\(v\)に依存しないので単に\(v=1\)として \(x=t\)などと表してもよい。) 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。
続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素ベクトルは \begin{eqnarray} d\bs{r} &=& \frac{d \bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ &=& \left( \begin{array}{c} v dt \\ 0 \\ \end{array} \right) \end{eqnarray} である。あとは、ステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると (\(\bs{r}(t)=(vt,0)\)に注意して) \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ & \ & =\int_{0}^{\frac{l}{v}} A_{x}(\bs{r}(t)) \frac{dx}{dt} dt \nonumber \\ & \ & =\int_{0}^{\frac{l}{v}} -k(vt) v dt \nonumber \\ & \ & = -\frac{1}{2}kx^2 \end{eqnarray} となり以上より積分結果 \(\int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r}= -\frac{1}{2}kx^2\) を得る。
\(C\)を\(y=ax+b \quad (-l \leq x \leq l)\)に沿った経路として、 \begin{equation} I_{2}= \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \end{equation} を計算したい。ただし\(k,m,g\)を正の定数として \begin{eqnarray} \bs{A}(\bs{r})=\left( \begin{array}{c} -kx \\ mg \end{array} \right) \end{eqnarray} とする。
例題の二つ目です。こちらも例題1と同様の計算で線積分を実行できます。
まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。 今回の場合は\(C\)が一次関数で、\(y=ax+b \quad (-l \leq x \leq l)\)なので \(v\)を適当な定数として \begin{eqnarray} x=vt \quad (\frac{-l}{v} \leq t \leq \frac{l}{v}) \\ y=a vt +b \quad (\frac{-l}{v} \leq t \leq \frac{l}{v}) \end{eqnarray} と表せる。(最終的な結果は\(v\)に依存しないので単に\(v=1\)として \(x=t,y=at+b\)などと表してもよい。) 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。
続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素ベクトルは \begin{eqnarray} d\bs{r} &=& \frac{d \bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ &=& \left( \begin{array}{c} v dt \\ a v dt \\ \end{array} \right) \end{eqnarray} である。あとは、ステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると (\(\bs{r}(t)=(vt,avt+b)\)に注意して) \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ & \ & =\int_{\frac{-l}{v}}^{\frac{l}{v}} \left(A_{x}(\bs{r}(t)) \frac{dx}{dt} + A_{y}(\bs{r}(t))\frac{dy}{dt}\right) dt \nonumber \\ & \ & =\int_{\frac{-l}{v}}^{\frac{l}{v}} A_{x}(vt,avt+b) vdt + A_{y}(vt,avt+b) a v dt \nonumber \\ & \ & =\int_{\frac{-l}{v}}^{\frac{l}{v}} (-k v^2 t + mg a v) dt \nonumber \\ & \ & = 2 mg a v \left( \frac{l}{v} \right) \nonumber \\ & \ & = 2a mg l \end{eqnarray} となり以上より積分結果 \(\int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r}=2a mg l\) を得る。
ここまでの例題では、(媒介変数を使わずに)単純に内積を取って例えば \begin{equation} \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} = \int_{-l}^{l} A_{x} dx + \int_{-al+b}^{al+b}A_{y}dy \end{equation} のようにしても計算はできてしまいます。ただ、一般にはそうはならないので注意が必要です。
線積分をデカルト座標で計算するとき、一般には \begin{equation} \int_{C} \bs{A} \cdot d \bs{r} \neq \int A_{x} dx+\int A_{y} dy + \int A_{z} dz \end{equation} なことに注意。
経路\(C\)を\(x^2+y^2=a^2\)の円を一周する軌跡 として、以下の線積分を実行したい。
\begin{equation} I_{3}= \int_{C} \bs{A} \cdot d\bs{r} \end{equation} を計算したい。ただし\(k\)を正の定数として \begin{equation} \bs{A}=\left (\begin{array}{c} -k y \\ k x\\ 0 \end{array} \right) \end{equation} とする。まず、ステップ1として経路\(C\)を媒介変数表示で表す。今回は軌跡が円なので、 \(\omega\)を適当な定数として、 \begin{eqnarray} x=a \cos \omega t \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi}{\omega}) \\ y=a \sin \omega t \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi }{\omega }) \\ z=0 \quad (0 \leq t \leq \frac{2 \pi }{\omega }) \end{eqnarray} と表せる。(最終的な結果は\(\omega\)に依存しないので単に\(\omega=1\)として \(x=a \cos t,y=a \sin t\)などと表してもよい。) 後でステップ3で使うので、\(t\)の定義域も忘れずに調べておく。
続いてステップ2であるが、ステップ1の結果より線素ベクトルは \begin{eqnarray} d\bs{r} &=& \frac{d \bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ &=& \left( \begin{array}{c} -a\omega \sin \omega t dt\\ a\omega \cos \omega t dt \\ 0 \end{array} \right) \end{eqnarray} である。あとは、ステップ3として (\ref{paradisplay})式を使えばよい。実際にやってみると \begin{eqnarray} & \ & \int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r} \nonumber \\ & \ & =\int_{0}^{\frac{2 \pi}{\omega}} (k a^2 \sin^2 \omega t + k a^2 \cos^2 \omega t) \omega dt \nonumber \\ & \ & =\int_{0}^{2 \pi} ka^2 d (\omega t) \nonumber \\ & \ & =2 \pi ka^2 \end{eqnarray} となり以上より積分結果 \(\int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r}=2\pi ka^2\) を得る。
その他の例題は仕事の計算の記事参照。 様々なパターンの線積分を考えているので、ここでは扱えなかった問題も解説されています。
線積分は(経路を正しく表せていれば)媒介変数の取り方には依存しない。
上の具体例を見ていくと、例えば媒介変数表示を適当な定数\(v\)を用意して\(x=vt\)と と表したとしても、最終的な結果に\(v\)が依存しないことが分かります。 つまり、\(v=1\)として\(x=t\)と置いても、\(v=2\)として\(x=2t\)と置いても 線積分の結果は変わらないわけです。 この性質を、線積分は媒介変数の取り方に依らないといいます。 (ただし、その媒介変数が経路を正しく表せている場合の話です)
証明に必要なのは合成関数の微分公式と置換積分くらいなので 簡単に示せます。
まず、経路\(C\)がある媒介変数\(t\)を使って \begin{eqnarray} \bs{r}=\bs{r}(t) \quad (a \leq t \leq b ) \end{eqnarray} と書けるとする。
このもとで、\(t\)とは異なる媒介変数\(s\)を 変数変換\(t=f(s)\)によって導入する。すると、上の表記は \begin{eqnarray} \bs{r}(t)=\bs{r}(f(s))=\tilde{\bs{r}}(s) \quad (a' \leq s \leq b') \end{eqnarray} のようにも表せる。(ただし、\(s\)の定義から \(f(a')=a,f(b')=b\)が成り立つとする。)
この二つの媒介変数を使って、線積分\(\int_{C} \bs{A}(\bs{r}) \cdot d\bs{r}\) の計算をそれぞれ実行してみよう。両者が等しいならば、 媒介変数に依存せず、線積分は一意に値が定まることがいえる。
まず\(t\)で媒介変数表示したものを\(I_{t}\)と置くと \begin{eqnarray} I_{t}=\int_{a}^{b} \bs{A}(\bs{r}(t)) \cdot \frac{d\bs{r}}{dt}(t) \ dt \end{eqnarray} であるが、続いて\(s\)を使って表したものを\(I_{s}\)と 置いてこれを計算すると、 \begin{eqnarray} I_{s}&=&\int_{a'}^{b'} \bs{A}(\tilde{\bs{r}}(s)) \cdot \frac{d\tilde{ \bs{r}}}{ds}(s) \ ds \nonumber \\ &=& \int_{a'}^{b'} \bs{A}(\bs{r}(f(s))) \cdot \frac{d\bs{r}}{dt}(f(s)) \ \frac{dt}{ds} ds \nonumber \\ &=& \int_{a}^{b} \bs{A}(\bs{r}(t)) \cdot \frac{d\bs{r}}{dt} dt \nonumber \\ &=& I_{t} \end{eqnarray} (ただし、途中で合成関数の微分と置換積分の公式を使った)以上より\(I_{s}=I_{t}\)であり 適切に経路をパラメータ化できていれば、線積分は媒介変数の取り方に依らないことが確認できた。